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空に咲く花
そらにさくはな
作品ID3980
著者宮本 百合子
文字遣い新字新仮名
底本 「宮本百合子全集 第十七巻」 新日本出版社
1981(昭和56)年3月20日
初出「婦人画報」1941(昭和16)年1月号
入力者柴田卓治
校正者磐余彦
公開 / 更新2003-12-15 / 2014-09-18
長さの目安約 2 ページ(500字/頁で計算)

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本文より




 空間をどこまで女性が自分の生活感情の中へ従えてゆくかということで、女の歴史の歩みが量られるのは何と面白いことだろう。昔の女性たちは、その生活の環をわずかに何十里の平面に限られて一生を過さなければならなかった。文明は進んで、女の動きは地球の上に相当広大な領域をもつようになった。けれども、汽車汽船などによる空間の征服は女性にとってまだ受け身な関係にあるものであった。
 やがて自動車での陸地の跋渉がはじまって、初めて女性は自分の体力と智力とによって地球を平面的にわがものとするに到った。
 女性が飛行機を操縦する時代になっていることは今世紀の人類的な飛躍の姿であると思う。より一層の体力とより一層の科学性とが女性の生活に加って来つつあることが、女性による空間の立体的な克服としてあらわれて来ているのである。
 非常に珍しく又危険と思われているパラシュート操作のようなことでも、優しく若い女性たちによって無事に敢行されると、そのことで人々は危険が案外少いことや自分たちの日常に親しめることのように感じるのは、女性の優しさに対して抱かれている先入観の実に面白い微妙な逆作用だと思う。新しい女性の活動の領域に一歩ふみ出したそれらの雄々しい若い女性たちが、そのように成功した結果で人々に親愛の印象を与えるまでに経験ある困難と堅忍とを、私たちはあらためて評価しなければならない。女性が空間を支配する程度に従って、女性への偏見がおのずから克服されてゆくことも意味ふかいと思う。
〔一九四一年一月〕



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