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未来を築く力
みらいをきずくちから
作品ID4020
著者宮本 百合子
文字遣い新字新仮名
底本 「宮本百合子全集 第十七巻」 新日本出版社
1981(昭和56)年3月20日
初出「FEMINA」1号、1947(昭和22)年8月発行
入力者柴田卓治
校正者磐余彦
公開 / 更新2003-12-23 / 2014-09-18
長さの目安約 2 ページ(500字/頁で計算)

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本文より




 女のひとというものは道理がわからないものだ、そう思われるのが常識であった時代はすぎた。夏目漱石が「吾輩は猫である」のなかで、婦人の精神の低劣さを諷刺した文章は、今日、もう日本の女性のおろかしさを語るものではなくなった。却って、漱石ほどの作家でさえも明治四十年代の日本の社会では、婦人についてこういう見解を語ったのだから、日本の封建的な習慣というものはひどいものであったと、凡ての人に考えさせる資料となった。
 道理もわかり、その方法も可能性として婦人の生活に芽生えているのに、まだ何か、婦人の日々のうちには湧き立つ美しくつよい力が不足している。あとからあとからとおさえがたい力で泉がふき出て来るような創造がまだ私たちの毎日にあふれていない。それは、なぜなのだろう。
 日本の女性は、余り過去に圧えられ従えさせられて来た。そのために、自分たちが現実にもっている実力に対して自信をもっていないのだと思う。可愛いいよちよち歩きの幼な児の前にしゃがんで、あとじさりしながら手をたたき、よろこびで笑いながら、マア、坊やお上手ね、そら、あんよ出来るでしょう? ここまで来てごらんなさい。ハイ、もう一つ、ヨイと! とはげましてやることを知っている日本のすべての若い女性が、自分の人生に対して、一つでもいいと信じることを実行するために、自分をはげますわざを知らないとしたら、それはあんまり哀れなことではないだろうか。きょうという日は、もう二度と私たちの人生にかえって来ない。それを思えば、私たちはそれを愛し、いっぱいの努力で内容づけたいと希わないものはないと思う。
〔一九四七年八月〕



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