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世界は平和を欲す
せかいはへいわをほっす
作品ID4029
著者宮本 百合子
文字遣い新字新仮名
底本 「宮本百合子全集 第十七巻」 新日本出版社
1981(昭和56)年3月20日
初出「青年の旗」1948(昭和23)年4月10日号
入力者柴田卓治
校正者磐余彦
公開 / 更新2003-12-27 / 2014-09-18
長さの目安約 3 ページ(500字/頁で計算)

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本文より




 日本の新聞はアメリカの良心的な市民が読んだら怒るだろうほどおく面ない調子で、アメリカに原子爆弾よりも殺リク力を持った、放射線の雲を作ることが発明されたと報じています。建物を破壊しないで人間はセン滅するから原子爆弾よりも有効であるなどと人間ならば言いかねる言葉を日本の新聞は書いております。しかしまた同じ日本の新聞はほんの小さく世界戦争の危機は迫っていないという大統領に立候補するスタッセンの言明をのせています。同じく大統領候補者のウォーレスは、
「戦争ちょう発はアメリカ人民自身の幸福を破壊するものである」
と。こうしてみると戦争ちょう発の舞台で二人の主人公のように扱われているアメリカもソヴェトもまたつづけて血なまぐさい騒動をくり返してみたところで何の役にも立たないことを十分に知っています。さもなければ一方の軍備拡張が大騒ぎで宣伝されている時に一方の国がゆうゆうと軍備縮小をするはずがありません。
 ところでまず私たち自身が平和を希望していることをはっきり自覚しなければなりません。
 世界に何千何万人の未亡人がいるか、孤児がいるか、戦災者がいるか、この人たちはみんな戦争を欲していません。
 この社会を発展させようとしている世界の婦人は戦争を欲していない、彼女たちの涙がそれを教えました。
 世界民主婦人連盟は八千万の婦人を平和のために組織しています。ファシストのイタリーで青年たちは驚く程多数平和のための青年組織に組織されています。客観的な状勢が平和の可能をもっており、世界の人類がそれを望まない時日本の人だけが未開の国の人のようにまるでそれが地震か何かのように起るだろうか起らないだろうかと心配しているとすれば、それはあんまりみじめなことではありませんか。
 世界の婦人が二度とあの無惨な経験をしたくない、平和をこそ欲していることを日本の婦人ははっきり知らなければなりません。自分一人の平和の希望でないことを知らなければなりません。こわいものみたさでそれに気分を引き入れられるような、弱い女の無責任を演じてはならないのです。
 特に若い日本の婦人たちは戦争ちょう発という言葉に対してそれは貴女も未亡人にしてみせますよといわれているということを感じるだろうと思います。私たちはそれを受け入れません。憲法は明記しています。
“すべての人が良心の自由をもっているということを”
〔一九四八年四月〕



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