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贋紙幣事件
にせさつじけん
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「少年小説大系 第7巻 少年探偵小説集」 三一書房
1986(昭和61)年6月30日
初出「少年倶楽部」1930(昭和5)年8月
入力者阿部良子
校正者大野晋
公開 / 更新2004-11-18 / 2014-09-18
長さの目安約 18 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

      一

 稀に田舎に来ると実に好いなあと思う。東京なんかに住まないで、こう云う田舎に住んで見たいなあと思う。空気が澄んでいるから空の色が綺麗で、林があって、野原があって、牧場があって、静かでのんびりしていて本当に好い。東京からそう遠くない所にこんな好い所があるんだもの、日曜には活動なんか見に行かないで、空気の好い広々とした田舎へ来る方が、どんなに気持が好いか知れやしない。
 中学にはいって始めての学期試験が間もなく来るので、うんと勉強しなくちゃいけない。臨時試験には算術と読方は十点だったけれども、英語が七点で、理科と地理が六点だった。だから学年試験は余程しっかりやらなくちゃならないのだけれども、お母さんが、勉強する時にはウンと勉強して、遊ぶ時にはウンと遊びなさい。日曜は空気の好い郊外に出て、身体を丈夫になさいと云われたから、今日はこうして森春雄君と一緒に田舎に来た。
 東京からそう離れてないと云ったけれども、これだけの道を、仮令途中は電車に乗るにしても、毎日通うのは大変だ。だから飛山君は偉いと思う。毎日この辺から学校に通っているのだから。
 飛山君は中学にはいってから始めて友達になった人だ。森君は小学校からずっと一緒で、とてもよく出来て、級長で通して来た、僕の大好きな友達だが、中学に来てもやっぱりよく出来て、臨時試験は皆満点だった。けれども中学となると、流石に方々の小学校からよく出来るものが集っているだけに、森君に負けないような人も二三人ある。飛山君はその一人で、臨時試験はやはり皆満点だった。それに真面目でおとなしいから、僕は直ぐ仲の好い友達になった。
 今日は森君と相談して飛山君の田舎に遊びに来た。本当に淋しい道だ。家はチラホラあるけれども、しーんとしていて、人がいるのかいないのか分らない位、通る人にも滅多に会わない。東京の町とは大変な違いだ。
「ああ、可愛い犬が来たぜ」
 森君はだしぬけに云った。森君は犬気違いだ。とても犬が好きで、犬とさえ見れば直ぐ呼んで可愛がる。妙なもので、犬の方でも可愛がって呉れる人は分ると見えて、時にはわんわん吠えて逃げて行くのもあるけれども、大抵の犬は尻尾を振りながら森君の傍に寄って来る。
 森君は舌を鳴らしながらその犬を呼んだ。真白のおとなしそうな犬で、おどおどしながらも、嬉しそうにヒョコヒョコと森君の傍に寄って来た。見ると、可哀相にびっこを引いている。森君も直ぐ気がついた。
「オヤ。びっこを引いているじゃないか。どうしたんだい。ちょっと脚をお見せ」
 森君は往来にしゃがんで犬を抱えるようにして、びっこを引いている脚を持上げて、丁寧に調べた。
「やっぱり蝨がついているんだ。可哀そうに。脚の爪の間に蝨がつくと、自分では取れないからな。よしよし取ってやるぞ」
 森君は犬の脚を高く上げて、爪の間に西瓜の種ほどの大きさに脹れ…

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