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虹の橋
にじのはし
著者
文字遣い新字旧仮名
底本 「定本 野口雨情 第六巻」 未來社
1986(昭和61)年9月25日
初出「東京朝日新聞 夕刊」1921(大正10)年5月14日~20日
入力者林幸雄
校正者今井忠夫
公開 / 更新2003-12-10 / 2016-02-07
長さの目安約 12 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

  (一)

 ある山国に、美しい湖がありました。
 この湖には、昔から、いろいろな不思議なことがありました。青々と澄んだ水が急に濁つたり、風もないのに浪が立つたり、空が曇つて星のない晩でも、湖の中にはお星様が映つて見えることなぞもありました。それには何か深い理由があるだらうと、村の人達は思つてゐましたが、湖の中におゐでになる水神様のほかには、誰も知りませんでした。
 いろいろ不思議なことがある中でも、わけても不思議なのは、この湖の上にかかる虹の橋でした。それは、ほかでは見られない綺麗な大きな虹でした。虹が出るたびに村の人達は、いつも湖の岸へ出て、その美しさに見とれて居るのでした。
 この湖に向ひ合つて、二つの村がありました。村の人達は、たいてい漁をしたり機を織つたりして、その日その日を平和に暮して居りました。
 さて、この湖の一方の村に、おたあちやんと、おきいちやんといふ、それはそれは仲のよい友達がありました。二人とも同じ歳の九つでした。
 二人は、姉妹のやうに、いえいえ姉妹よりも、もつともつと仲よしでした。それに顔や姿までが、どことなく似てゐたものですから、村の人達は双児のやうだとよく云ひました。
 しかし、おたあちやんの家は、どちらかと云へば、村でも金持ちの方でしたが、おきいちやんの方は貧乏な家でした。また、おたあちやんには、本当のお父さんも、お母さんもありましたが、おきいちやんには、それがありませんでしたから、赤ン坊の時から伯父さんや伯母さんの手で、やしなはれて来たのでした。
 この平和な村にも春はおとづれて来ました。機屋の窓にも、湖の上にも、陽炎がゆらゆらと燃えはじめました。
 二人の仲よしは、芹だの、蓬だのと、毎日のやうに、湖に沿ふて遠くまで摘み草に出掛ました。

  (二)

 ある日、二人の仲よしは、土筆を採りに行くことになりました。おたあちやんのお母さんは、いつものやうに、二人にお弁当をこしらへてくれました。そして云ひました。
『土筆を採りに行つたら、気をつけておいでよ、三又土筆と云つて一つの茎から三つの土筆が出てゐるのがあるかも知れないからね。そんなのは滅多にないのだけど、ひよつとしたらあるかも知れないよ、昔から三又土筆を見つけた人は、出世すると云つてゐるから探して御覧』
 出世すると云はれて、二人の大くみひらいた眼には、一層喜びの色があらはれました。

『わたし、なんだか三又土筆てのを見つけるやうな気がしてよ』とおたあちやんは行く途々云ひました。
『さう、わたしもそんな気がするわ』
 おきいちやんも負けん気になつて云ひました。
『ぢや、二人とも見つけるのね』
『そして二人共出世するのよ』
『オホホホオホホホ』
『オホホホオホホホ』
 二人はたわいもなく笑ひ興じながら村境を湖の方へ流れてゐる小川の堤へまゐりました。そこから二人は堤に添ふて…

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