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少女と海鬼灯
しょうじょとうみほおずき
作品ID4083
著者野口 雨情
文字遣い新字旧仮名
底本 「定本 野口雨情 第六巻」 未來社
1986(昭和61)年9月25日
初出「小学女生」1921(大正10)年11月号
入力者林幸雄
校正者今井忠夫
公開 / 更新2003-12-11 / 2016-02-07
長さの目安約 2 ページ(500字/頁で計算)

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本文より




 ある日、みつ子さんがお座敷のお縁側で、お友達の千代子さんと遊んでゐますと、涙ぐんだ小さな声で唄が聞えて来ました。

わたしの お家は
海なのよ
わたしの姉さん
母さんは
御無事で お家に
居るでせうか

わかれて来てから
もう二年
一度もたよりは
ないけれど
お家に 御無事で
居るでせうか

 唄は、ほんたうに哀ツぽい悲しさうな声で又聞えました。

渚の沙さへ
子があれば
わかれて逢はない
子があれば
雨風吹いても
思ふでせう

千代ちやん みつちやん
千代子さん
みつちやん 千代ちやん
みつ子さん
雨風吹いても
思ふでせう

『あら』とみつ子さんは『千代子さんお聞きなさい。お庭の土の中でうたつてゐるんだわ』とびつくりして云ひました。
 しばらくすると、唄は又聞えて来ました。

わたしは お庭へ
捨てられて
夜昼 ひとりで
泣きました

どなたも 迎ひに
来てくれず
捨てらればなしに
なりました

『土の中でうたつてるのは誰?』とみつ子さんと千代子さんが大な声で云ひますと、

わたしは 海の
鬼灯よ
わたしは お庭へ
捨てられて
今では お庭の
土の下 土の下

『まア、鬼灯がうたつてるんだわ』『掘つてみませうよ』と二人は、小さい草引鍬で、この辺か知らと掘りますと、色のあせた海鬼灯が出て来ました。
『今しがた、うたつたのはお前なの』と訊きますと、『わたしです』と海鬼灯は、うれしさうに涙を浮べて、『お母さんや姉さんに逢ひたいから海へ帰して下さい』と二人にたのみました。みつ子さんも千代子さんも可哀想に思つて、海鬼灯を木の葉の上へ乗せて、
『かうして乗つてゐると海へゆけるからね』と裏の川へ持つていつて流してやりました。
 海鬼灯は、木の葉の上に捉つて、

情は他人のためならず
御恩は必ず返します

と、繰り返し繰り返し歌ひながら、水の流につれて川下の方へ流れてゆきました。



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