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世界怪談名作集
せかいかいだんめいさくしゅう
副題04 妖物
04 ダムドシング
著者
翻訳者岡本 綺堂
文字遣い新字新仮名
底本 「世界怪談名作集 上」 河出文庫、河出書房新社
1987(昭和62)年8月4日
入力者もりみつじゅんじ
校正者門田裕志
公開 / 更新2003-12-13 / 2014-09-18
長さの目安約 18 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

       一

 粗木のテーブルの片隅に置かれてあるあぶら蝋燭の光りを頼りに、一人の男が書物に何か書いてあるのを読んでいた。それはひどく摺り切れた古い計算帳で、その男は燈火によく照らして視るために、時どきにそのページを蝋燭の側へ近寄せるので、火をさえぎる書物の影が部屋の半分をおぼろにして、そこにいる幾人かの顔や形を暗くした。書物を読んでいる男のほかに、そこには八人の男がいるのである。
 そのうちの七人は動かず、物言わず、あらけずりの丸太の壁にむかって腰をかけていたが、部屋が狭いので、どの人もテーブルから遠く離れていなかった。かれらが手を伸ばせば八人目の男のからだに触れることが出来るのである。その男というのは、顔を仰向けて、半身を敷布におおわれて、両腕をからだのそばに伸ばして、テーブルの上に横たわっていた。彼は死んでいるのである。
 書物にむかっている男は声を出して読んでいるのではなかった。ほかの者も口をきかなかった。すべての人が来たるべき何事かを待っている様子で、死んだ人ばかりが待つこともなしに眠っているのである。外は真の闇で、窓の代りにあけてある壁の穴から荒野の夜の聞き慣れないひびきが伝わって来た。遠くきこえる狼のなんともいえないように長い尾をひいて吠える声、木立ちのなかで休みなしに鳴く虫の静かに浪打つようなむせび声、昼の鳥とはまったく違っている夜鳥の怪しい叫び声、めくら滅法界に飛んでくる大きい甲虫の唸り声、殊にこれらの小さい虫の合奏曲が突然やんで半分しかきこえない時には、なにかの秘密を覚らせるようにも思われた。
 しかし、ここに集まっている人びとはそんなことを気にとめる者もなかった。ここの一団が実際的の必要を認めないことに興味を有していないのは、たった一つの暗い蝋燭に照らされている、かれらの粗野なる顔つきをみても明らかであった。かれらは皆この近所の人びと、すなわち農夫や樵夫であった。
 書物を読んでいる人だけは少し違っていた。人は彼をさして、世間を広くわたって来た人であると言っているが、それにもかかわらず、その風俗は周囲の人びとと同じ仲間であることを証明していた。彼の上衣はサンフランシスコでは通用しそうもない型で、履き物も町で作られた物ではなく、自分のそばの床に置いてある帽子――この中で帽子をかぶっていないのは彼一人である――は、もしも単にそれを人間の装飾品と考えたらば大間違いになりそうな代物であった。彼の容貌は職権を有する人に適当するように、自然に馴らされたのか、あるいは強いて粧っているのか知らないが、一方に厳正を示すとともに、むしろ人好きのするようなふうであった。なぜというに、彼は検屍官である。彼がいま読んでいる書物を取り上げたのもその職権に因るもので、書物はこの事件を取り調べているうちに死人の小屋の中から発見されたのであった。審問は今この小屋で…

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