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沼田の蚊帳
ぬまたのかや
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「怪奇・伝奇時代小説選集3 新怪談集」 春陽文庫、春陽堂書店
1999(平成11)年12月20日
入力者Hiroshi_O
校正者noriko saito
公開 / 更新2004-09-29 / 2014-09-18
長さの目安約 1 ページ(500字/頁で計算)
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本文より




 安政年間の事であった。両国矢の倉に栄蔵と云う旅商人があった。其の男は近江から蚊帳を為入れて、それを上州から野州方面に売っていたが、某時沼田へ往ったところで、領主の土岐家へ出入してる者があって、其の者から土岐家から出たと云う蚊帳を買って帰り、それを橘町の佐野又と云う質屋へ持って往った。それは十畳吊の萌黄地の近江麻で、裾は浅黄縮緬、四隅の大房から吊手の輪乳に至るまで、凝ったものであったから主翁は気にいった。そこで主翁は十五両で買ったが、それは一両三歩二朱で買った物であるから栄蔵は大喜びであった。ところで翌朝、栄蔵の家へ佐野又から使が来た。栄蔵は何事だろうと思って出かけて往った。
「旦那、お使いをいただきまして」
「栄蔵か、此の蚊帳は返すよ。浜町の親父が来て、吊って寝ると云って持ってったが、蚊帳の外へ、養老しぼりの浴衣を着た、二十位の女が来て中を覗いたそうだ。金は要らないから持ってってくれ」
 と云って蚊帳を返された。栄蔵が後で探ると、土岐家の妾が小姓と不義をしたと云う嫌疑で、其の蚊帳の内で斬られたとの事であった。



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