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法華僧の怪異
ほっけそうのかいい
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「怪奇・伝奇時代小説選集3 新怪談集」 春陽文庫、春陽堂書店
1999(平成11)年12月20日
入力者Hiroshi_O
校正者noriko saito
公開 / 更新2004-10-18 / 2014-09-18
長さの目安約 7 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 奈良県吉野郡掖上村茅原に茅原寺と云う真宗の寺院があった。其の寺院は一名吉祥草院。其処に役行者自作の像があって、国宝に指定せられているが、其の寺院に名音と云う老尼がいた。
 私が其の名音に逢った時は、昭和三年で六十位であった。其の名音は、最初泉の某と云う庵にいて有徳の住持に事えていた。
 名音が尼僧になったのは、中年になってからで、其の動機に就いては、小説にでもなりそうな哀話があるということだが、それに就いては語らなかった。
 名音が泉の尼寺へ入って二度目の秋を迎えた時のことであった。某朝平生のように朝の礼拝を終って境内の掃除をしていたが、庭前に咲いた萩の花が美しいので、見るともなしに見ていると、近くの旅館から来た散歩客とでも云うような来客があった。それは三十二三の男と三十七八の女であったが、男は大島の着流しでステッキを突き、女は錦紗づくめの服装をしていた。
「早朝から恐縮ですが、住持様は、もうお眼覚めでしょうか」
 男は其のくだけた服装にも似ず、態度や詞つきが丁寧であった。名音はこんなに早くては住持様が迷惑するだろうと思ったが、男の態度に好感が持てたので、住持に取りついだ。住持は名音を信用しているので、すぐ二人を客間へ通した。二人は兄弟で女は男の姉であったが、家庭の事情で尼になりたいと云うのであった。
「一口に尼になりたいとおっしゃっても、それは容易なことではありませんからな」
 住持は痛ましそうに女の方を見た。其の時まで何も云わずに俯向いていた女が、初めて顔をあげて住持を見た。
「それはよく存じておりますが、私は尼になるよりほかに、救われる道がございません。どんな苦行でも難行でもいたします、どうかお弟子にしてくださいませ」
 女の弟はそれに続けて云った。
「私も幾度も思いとまらせようといたしましたが、よほど思いつめておりますから、どうか人間一人を助けると思って、曲げてお許しを願いたいと思います」
 住持はどうしたものだろうかと云うような表情をして名音を見た。名音はそれほど思いつめるには、よほど苦しい過去を持っているに違いないと思って、すっかり女に同情してしまった。
「住持様、あんなにおっしゃいますから、肯いておあげになっては如何でございます」
「そうじゃな、それでは、こうして頂きましょう。今夜もう一度お考えなすって、それでも決心が変らなかったら、明日改めてお出でを願いましょう」
 それを聞くと二人は喜んで帰って往ったが、翌日になって女が移って来たので、住持が最初鋏を入れ後は名音の手で剃髪した。其の女は玉音という法名が与えられた。名音は何彼と新入の玉音のために世話をしてやった。玉音は顔だちも美しく素直な女だったので、住持にも気に入られた。名音は此の調子でゆけば、世話の為甲斐があると思って喜んだ。こうして数日すぎたところで、夜半比になって玉音が急に苦しみはじ…

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