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長者
ちょうじゃ
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「日本怪談全集 Ⅱ」 桃源社
1974(昭和49)年7月5日
入力者Hiroshi_O
校正者大野裕
公開 / 更新2012-11-21 / 2014-09-16
長さの目安約 6 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 何時の比であったか、四国の吉野川の辺に四国三郎貞時と云う長者が住んでた。其の長者の家では日々奴隷を海と山に入れて、海の宝、山の宝を集め執らしたので、倉と云う倉には金銀財宝が満ち溢れていたが、人には爪のさきほども施してやる心がなかった。しかし、こうした貪慾の男でも、我が子は非常に可愛がって、小児のこととなるとどんなに無益な費をしてもいとわなかった。
 長者には八人の子があった。某日其の長者の家へ、穢い容をした旅僧が錫杖を鳴らしながら来て手にした鉄鉢をさし出して、
「御報謝を願います」
 と云った。庭前で小児の対手になって遊んでいた長者は、之を見ると、
「ならん、帰れ」
 と云って叱りつけた。旅僧は静に出て往った。しばらくすると又錫杖の音をさして引返して来て、
「御報謝を願います」と云って立った。
 長者は五つ位になる下の女の子を抱きあげたところであった。之を見ると急いで女の子をおろし、未だ両の袖にも縋っている男の子の手も除けて置いて旅僧の傍へ往って、「帰れと云ってあるに何故またやって来た、俺はお前達に報謝する因縁がない、帰れ」と云って叱った。
 旅僧は小児小児した柔和な眼で、脂ぎった長者の顔を一眼じっと見た後に、黙って戸外へ出て往った。
「煩い坊主じゃ、なんだって二度もやって来るだろう、煩く云っていたらくれるとでもおもってるだろうか、ふン」
 長者は忌いましそうに呟きながら、小児の方へ歩いて往ってまた其の対手になっていた。と、また何処からともなく錫杖の音がして、初めの旅僧がひょっこり入って来た。長者は之を見るとむらむらと怒が燃え立った。絡わりついて来る小児を突き除けるようにして、旅僧の傍へ進んで往った。
 旅僧は柔和な眼をして鉄鉢をさし出しながら、
「どうか御報謝を願います」
「此の盲目坊主、おんなじ家が判らないのか、お前はぜんたい、何のためにそんなことをしておるのじゃ」
「私は衆生済度のためにこんなことをしております」
「人に物を貰うに、何が衆生済度じゃ、それよりゃ、俺がお前を済度してやろう」
 長者はこう云うが早いか、旅僧の持っている鉄鉢を引ったくって、傍にある石の上に投げつけたので、鉢は音を立てて八つに砕けて空に飛び散った。と、今まで明るい陽がさしていた空が不意に暗くなって、真黒な雲が渦巻のように舞いさがって来て、空中に浮んだ鉢の破片を包んで空高く騰って往った。長者は茫然として其の様を見ていたが、ふと気が注いて見ると、旅僧の姿はもうなかった。長者といっしょに遊んでいた三人の小児は、抱き合ったままで地べたに倒れていた。

 其の夜長者の総領が急に病気になった。小児思いの長者は驚いて、薬よ祈祷よと云って気をもんだが、其の夜の明け方になって、まだろくろく手当も届かない中に死んでしまった。
 長者は驚きと悲しみとに世の中が暗くなったような気がしていると、また次…

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