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醜い家鴨の子
みにくいあひるのこ
作品ID42386
原題DEN GRIMME AELLING
著者アンデルセン ハンス・クリスチャン
翻訳者菊池 寛
文字遣い新字新仮名
底本 「小學生全集第五卷 アンデルゼン童話集」 興文社、文藝春秋社
1928(昭和3)年8月1日
入力者大久保ゆう
校正者秋鹿
公開 / 更新2006-03-08 / 2014-09-18
長さの目安約 22 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 それは田舎の夏のいいお天気の日の事でした。もう黄金色になった小麦や、まだ青い燕麦や、牧場に積み上げられた乾草堆など、みんなきれいな眺めに見える日でした。こうのとりは長い赤い脚で歩きまわりながら、母親から教わった妙な言葉でお喋りをしていました。
 麦畑と牧場とは大きな森に囲まれ、その真ん中が深い水溜りになっています。全く、こういう田舎を散歩するのは愉快な事でした。
 その中でも殊に日当りのいい場所に、川近く、気持のいい古い百姓家が[#「百姓家が」は底本では「百性家が」]立っていました。そしてその家からずっと水際の辺りまで、大きな牛蒡の葉が茂っているのです。それは実際ずいぶん丈が高くて、その一番高いのなどは、下に子供がそっくり隠れる事が出来るくらいでした。人気がまるで無くて、全く深い林の中みたいです。この工合のいい隠れ場に一羽の家鴨がその時巣について卵がかえるのを守っていました。けれども、もうだいぶ時間が経っているのに卵はいっこう殻の破れる気配もありませんし、訪ねてくれる仲間もあまりないので、この家鴨は、そろそろ退屈しかけて来ました。他の家鴨達は、こんな、足の滑りそうな土堤を上って、牛蒡の葉の下に坐って、この親家鴨とお喋りするより、川で泳ぎ廻る方がよっぽど面白いのです。
 しかし、とうとうやっと一つ、殻が裂け、それから続いて、他のも割れてきて、めいめいの卵から、一羽ずつ生き物が出て来ました。そして小さな頭をあげて、
「ピーピー。」
と、鳴くのでした。
「グワッ、グワッってお言い。」
と、母親が教えました。するとみんな一生懸命、グワッ、グワッと真似をして、それから、あたりの青い大きな葉を見廻すのでした。
「まあ、世界ってずいぶん広いもんだねえ。」
と、子家鴨達は、今まで卵の殻に住んでいた時よりも、あたりがぐっとひろびろしているのを見て驚いて言いました。すると母親は、
「何だね、お前達これだけが全世界だと思ってるのかい。まあそんな事はあっちのお庭を見てからお言いよ。何しろ牧師さんの畑の方まで続いてるって事だからね。だが、私だってまだそんな先きの方までは行った事がないがね。では、もうみんな揃ったろうね。」
と、言いかけて、
「おや! 一番大きいのがまだ割れないでるよ。まあ一体いつまで待たせるんだろうねえ、飽き飽きしちまった。」
 そう言って、それでもまた母親は巣に坐りなおしたのでした。
「今日は。御子様はどうかね。」
 そう言いながら年とった家鴨がやって来ました。
「今ねえ、あと一つの卵がまだかえらないんですよ。」
と、親家鴨は答えました。
「でもまあ他の子達を見てやって下さい。ずいぶんきりょう好しばかりでしょう? みんあ父親そっくりじゃありませんか。不親切で、ちっとも私達を見に帰って来ない父親ですがね。」
 するとおばあさん家鴨が、
「どれ私にその割れない卵を見せ…

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