えあ草紙・青空図書館 - 作品カード


広告

蘇生
そせい
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「豊島与志雄著作集 第一巻(小説Ⅰ)」 未来社
1967(昭和42)年6月20日
初出「新小説」1918(大正7)年12月
入力者tatsuki
校正者松永正敏
公開 / 更新2008-10-22 / 2014-09-21
長さの目安約 31 ページ(500字/頁で計算)
えあ草紙で読む
HTMLページで読む

広告

find Kindle 楽天Kobo Playブックス

find Audible YouTube

本の感想を書き込もう web本棚サービスブクログ作品レビュー

青空文庫の図書カードを開く

find えあ草紙・青空図書館に戻る

楽天Koboで表紙を検索

広告

本文より

 人物
高木敬助………二十四歳、大学生
中西省吾………二十五歳、大学生、敬助と同居人
山根慶子………二十一歳、敬助の自殺せる恋人
同 秋子………十八歳、慶子の妹
村田八重子………二十一歳、慶子の親友、省吾と許婚の女
其他――老婆(六十三歳、敬助と省吾との召使)、看護婦、医師、高橋及び斎藤(敬助の友人)、幻の人物数人


 深い水底に沈んだ様な感じだった。何の音も聞えず、何の象も見えなかった。ただ盲いた一種の快さが深く湛えていた。と、何処からともなく明るみが差込んできた。その明るみが彼を上へ上へと引上げようとした。然し彼の後頭部は鉛で出来ているかの様に重かった。そして上へ引上げようとする明るみの力と、下へ沈ませようとする後頭部の力とが、暫く相争っていた。やがてその両方の力が平均すると、何か張切った綱が切れたような気がした。と急に明るくなった。――敬助は眼を開いた。
 黒い紗の布を被せた電球のタングステン線が見えた。それをじっと見ていると、胃袋の底から重苦しいものが逆にぐっと喉元に込み上げて来た。息がつまるような気がした。で両肩に力を入れてその重苦しい固まりを押え止めると、胸から一人でに大きい息が出た。あたりはしいんとなった。
 輪郭の線が幾つにもぼやけた二三の顔が、彼の方へ覗き込んでいた。眼ばかりが馬鹿に鋭く輝いていた。そのうちの一つが急にゆらりと動いた。すると何か大きい物音がして、耳にがあんと反響して、頭の底まで震え渡った。
 その響きが静まると、意識がはっきりして来た。先ず天井板が眼にはいった、板と板との重ね目が馬鹿に大きくなって、それから人が三人坐っていた。
 それだけの簡単な光景が、強く彼の頭裏に飛び込んできた。と其処には前から深く刻み込まれていた別の光景があった。そしてその中に新らしい光景がぴたりと嵌りこんだ。二つが一つのものになってしまった。ただ何か一つ足りないものがあった。眼球をぐるりと廻して眺めると、人数が一人足りないことが分った。「誰だったかしら?」と彼は考えた。すると眼がくらくらとした。
「気がついたか!」
 そういう声がした。見ると其処には中西が居た。婆さんも居た。も一人若い女が居た。見覚えのあるような顔だった。「あそうだ!」と彼は思った(然し実際は誰だか分らなかった)、そして身を起そうとした。
「お静かにして被居らなくては!」とその女がいった。そして皆で彼を元のように寝かしてくれた。その時彼は初めて、自分が蒲団の中に寝ていること、全身の関節に力が無くて骨がばらばらになってること、中西と婆さんと看護婦とが枕頭についていること、それだけのことを感じた。
 何故だか分らなかった。然しそれが至極当然なことのような気がした。
「気がついてくれてよかった。どんなに心配したか分らなかったよ。」と中西がいった。
 看護婦が手を上げた。猫が顔を撫でる時に…

えあ草紙で読む

ライフメディアへ登録

Koboユーザー必見!
楽天スーパーポイントとは別に
価格の5%がポイントに!

find えあ草紙・青空図書館に戻る

© 2016 Sato Kazuhiko