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人間繁栄
にんげんはんえい
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「豊島与志雄著作集 第二巻(小説Ⅱ)」 未来社
1965(昭和40)年12月15日
初出「改造」1924(大正13)年5月
入力者tatsuki
校正者小林繁雄、門田裕志
公開 / 更新2007-11-08 / 2014-09-21
長さの目安約 39 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 津田洋造[#「洋造」は底本では「洋蔵」]は、長男が生れた時、その命名に可なり苦しんで、いろいろ考え悩んだ末、一郎と最も簡単に名づけてしまった。長女が生れた時も、やはり同様にして、丁度春だったので、春子と最も簡単に名づけた。そして、それが結局好都合となった。彼は男の子が出来る毎に、二郎、三郎、四郎……と順々に名づけていった。九郎まできたら、此度は自分の名前を一字冠して、洋一郎、洋二郎……としてゆくつもりだった。女の子に対しては、生れた時の季節や花の名などをつけることにした。そして今、四十歳にして彼は、男の子が一郎から八郎まで八人、女の子が春子、冬子、梅子、秋子、桃子の五人、合計十三人の父親だった。
 十三人というからには、勿論母親は一人ではなかった。皆合して五人いた。
 男一人に女五人、そして子供十三人、これなら充分一家繁栄で、目出度くなくもない……と津田洋造は考えた。そして自分が四十歳になったのを機会に、皆一堂に会してみたらと思って、妻の八重子に云ってみた。
「俺はもう四十になったのだから、体力の方から云えば、一生の盛りを越して、これから次第に衰えるかも知れないし、それよりも先ず第一に、酒の量が多いから、脳溢血だの脳貧血だの、そんな風な病気で、いつころりといってしまうかも分らない。だから、今のうちに、四十になったのを機会に、一度皆一緒に……お前が知ってる通り、丁度十三人の子供があって、互に会ったこともないのがあるから、一緒に集ってみたらと思うんだがね、どうだろう。一つ賑かに、園遊会みたいなことをやってもいいし、何処かへ出かけていってもいいし、兎に角皆の顔合せだけを、何とかしてみたいと思うんだがね……。」
 八重子は長火鉢の前に、人形のように坐っていたが、眉根をぴくりとさした。
「そして、母親達も一緒でございますか。」
「そうさね、乳飲児や小さいのがあるから、子供ばかりというわけにもゆくまい。」
「それでは私だけ欠席さして頂きます。家の子はもう私が参らないでも大丈夫ですから。」
「それは困るよ。欠席とか出席とかそんな問題じゃないんだ。お前が俺の妻として、会の中心になってくれなくちゃあ……。」
「私は嫌ですわ。大勢の前に恥をさらしたくはありません。」
「だって、そんなことは、初めからお前も承知していることだし、子供もみなお前の子になってるじゃないか。俺が他の女に子を生せようと、お前を妻として立派に立ててさえゆけば、それでいいというような約束じゃなかったのかね。」
「ええ、私はそれを兎や角云うのではありません。あなたが他に幾人女をお持ちなさろうと、幾人子供をお拵えなさろうと、それは初めから承知の上のことですから、何とも思ってやしませんし、あなたの本当の妻として、他の女達に指一本指させはしませんけれど、それでも……恥は恥です。」
「恥だって……。ではお前は、初めか…

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