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獄中への手紙
ごくちゅうへのてがみ
副題01 一九三四年(昭和九年)
01 せんきゅうひゃくさんじゅうよねん(しょうわきゅうねん)
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「宮本百合子全集 第十九巻」 新日本出版社
1979(昭和54)年2月20日
入力者柴田卓治
校正者花田泰治郎
公開 / 更新2004-08-20 / 2014-09-18
長さの目安約 31 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 十二月八日 〔牛込区富久町一一二市ヶ谷刑務所の宮本顕治宛 淀橋区上落合二ノ七四〇より(封書)〕

 第一信。 (不許)[自注1]
 これは何と不思議な心持でしょう。ずっと前から手紙をかくときのことをいろいろ考えていたのに、いざ書くとなると、大変心が先に一杯になって、字を書くのが窮屈のような感じです。
 先ず、心からの挨拶を、改めて、ゆっくりと。――
 三日におめにかかれた時、自分で丈夫だと云っていらしったけれども、本当は余り信用出来なかったのです。叔父上[自注2]が、顔から脚から押して見てむくんでいないと仰云ったので、それでは本当かと、却ってびっくりしたほどです。それにしても体がしっかりしていらっしゃるのは何よりです。私とは勿論くらべものにはならないけれども、私は一月から六月中旬までの間に相当妙な調子になって、やっとこの頃普通にかえりましたから信用しなかったのも全く根拠のないことではないわけです。
 叔父上は十二月六日に林町[自注3]にお出でになり父[自注4]にも会われ、いろいろのお話を伺いました。さしいれのこと、弁護士のこと、毛糸であんだ足袋のこと、いろいろ承知いたしました。お弁当のこと、弁護士のことは、大体私もそのように考えて居りましたから御安心下さい。籍のこと[自注5]ももう余程前からの話なのですが、やっと今度お話になられ、私も非常に満足です。あなたも其を当然のことと感じて、御返事下すったということはこれも亦私にとっては様々の意味で愉快なことです。そういう私の心持はおわかりになるでしょう?
 五日に叔父上のお会いになったときは、もうあの百日カズラに髯ボーボーではなかったってね。着物は先のままであったそうですが、今日あたりは差しいれたのが届いただろうと思って居ります。帯をしていらしったというけれど、それはどんな帯だったのか、私の入れたやすもののヘコ帯かしら。それとも違うのかしら、と叔父上に伺ったら「ヤアそれは気が付かざった!」と首をちぢめておいででした。
 六日の日は、お昼を竹葉の本店へお伴して、座敷が大変お気に入り、今日七日はおひる父と三人で、銀座の星ヶ丘茶寮の出店。かえりにずっと上落合の家へおいでになり、ねころがったり起きたりよもやまのお話ですっかりくつろがれました。夕飯を壺井さん[自注6]と三人でスキヤキをたべて、それから東京駅へお送りして行って、九時ので大阪までお立ちになりました。もう五分くらいしかないので、私が寝台から出て来ようとすると、どっかで林町の父のお得意の口笛の音がするので、キョロキョロしたら、急いであつそうな顔をしながら片手に浅漬の樽を下げてお見送りに来たのでした。
 私は島田の父上[自注7]の御好物の海苔をおことづけ願いましたし、べったら漬もあるし、まあ東京からおかえりらしいお土産が揃って結構でした。
 お立ちになってから林町へ一…

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