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轢死人
れきしにん
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「豊島与志雄著作集 第六巻(随筆・評論・他)」 未来社
1967(昭和42)年11月10日
入力者tatsuki
校正者門田裕志
公開 / 更新2006-01-20 / 2014-09-18
長さの目安約 8 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 S君が私に次のような話をしてきかした。
「……そういうわけで、私の友人はその男の後からついて行ったそうです。而もその男というのが友人の知人なんです。常識で考えると一寸妙な話ですが、若々しい情熱に駆られてる頃には、知人の死をただじっと見送るようなこともあるらしいです。その気持ちを想像出来ないこともありませんね。まあ自殺の傍観的共犯者とでも云えるわけですね。で私の友人は、籔の後ろに隠れてその男の動作を見守っていたそうです。勿論向うはそれを知りません。畑の間をすたすたと歩いていって、鉄道の線路に着くと、其処に屈んで、頭を両手で抱えて、長い間じっとしていたそうです。それから、遠くに汽車の姿が見えると、いきなりレールの上に、長く寝てしまいました。汽車は次第に近づいてくる。男は身動きもしません。もう意識を失ってるかのようです。所が、汽車が愈々一二町先に迫って来ると、男はふいに、はっと飛び起きて、線路から飛びのいてしまいました。そして自分の前を通り過ぎた汽車を、棒のようになって見送っているのです。籔の影から様子を窺ってた友人は、ほっと安心すると共に、何だか妙に滑稽な気持ちがしたそうです。青春の頃の感情には、何処までも、真剣さと遊戯心とが絡合ってるものと見えますね。今にその男が、どういう顔付をして戻って来るかと、友達は心待ちにしていたそうです。所が男は、じっと線路の傍に棒立になったきり、身動き一つしません。そのうちに、だいぶ暫くしてだったでしょうが、幸か不幸か、反対の方からまた汽車がやって来ました。すると男は、ふらふらと、まるで夢遊病者ででもあるように、線路の上に上っていって、またレールを枕に寝てしまいました。死神にとっつかれてるというんでしょうね。それを見た友人は、驚いて――前の時と後の時となぜそう気持ちが違ったか、自分でも分らないと云っていましたが――大声を立てたそうです。それから俄に走り出したそうです。然し線路までは可なりの距離があります。男は死んだようになって寝ています。汽車は猶予なく近づいて来ます。
 友人は遂に、到底間に合わないことをみて取りました。それと同時に、身体が悚んでしまって声も出なかったそうです。自分自身が死の淵に臨んででもいるように、惘然と其処に釘付にされてしまったそうです。見ると、男はやはりレールに寝ているし、汽車は一刻の猶予もなく走って来るのです。そのうちに汽車が一町ばかり先に迫ると、男はまたぱっと飛び起きました。よく誰でも云いますね、鉄道自殺は、その間際に飛び込まなくてはいけないもので、前から線路に寝てなぞ居られるものでないと。その男もやはり寝て居られなかったのでしょう。……友人は男が飛び起きたのを見て、ほっと安心したそうです。所がどうでしょう。その男は、線路から飛び退きもしないで、線路の上に一つ飛び上ったかと思うと、そのまま、進行してくる汽…

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