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家常茶飯 附・現代思想
かじょうちゃはん ふ・げんだいしそう
著者
翻訳者森 鴎外 / 森 林太郎
文字遣い新字新仮名
底本 「森鴎外全集12」 ちくま文庫、筑摩書房
1996(平成8)年3月21日
入力者鈴木修一
校正者土屋隆
公開 / 更新2008-08-13 / 2014-09-21
長さの目安約 73 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

     第一場

広き画室。大窓の下に銅版の為事をする卓あり。その上に為事半ばの銅版と色々の道具とを置きあり。左手に画架。その上に光線を遮るために使う枠を逆さにして載せあり。室の真中に今一つの大いなる画架あり。その脇に台あり。その上に色々の形をなしたる筆立に絵筆を立てあり。筆立の中には銅器にて腹のふくらみたるも交れり。絵具入になりおる小さき箪笥。その上には色々の雑具を載せあり。その内に小さき鏡、コニャック一瓶、小さきコップ数個、紙巻莨を入れたる箱、菓子を入れたる朱色の日本漆器などあり。その傍に甚だ深く造りたる凭掛の椅子あり。凭りかかる処は堅牢に造りありて、両肱を持たする処を広くなしあり。この椅子に向き合せて、木部を朱色の漆にて塗りたる籐の椅子あり。奥の壁は全く窓にて占領せられおる。左手の壁に押付けて黒き箪笥を据えあり。その上に髑髏に柔かき帽子を被せたるを載せあり。また小さき素焼の人形、鉢、冠を置きあり。その壁には鉛筆画、チョオク画、油絵等のスケッチを多く掛けあり。枠に入れたると入れざると交れり。前手に小さき円形の鉄の煖炉あり。その上に鍋類を二つ三つ載せあり。黒き箪笥の傍に、廊下より入り来るようになりおる入口あり。右手の壁の前には、窓に近き処に寝椅子あり。これに絨緞を掛く。その上にはまた金糸の繍ある派手なる帛を拡げあり。この上の壁は中程を棚にて横に為切りあり。そこまで緑色の帛を張りあり。その上に数個の額を掛く。小さき写真の上を生花にて飾りたるあり。棚の上には小さき、柄の長き和蘭陀パイプを斜に一列に置きあり。その外小さき彫刻品、人形、浮彫の品等あり。寝椅子の末の処に一枚戸の戸口あり。これより寝間に入る。その傍に、前へ寄せて、人の昇りて立つようにしたる台あり、その半ばを屏風にて隠しあり。台の上には緋の天鵞絨に金糸の繍ある立派なる帛を投げ掛けあり。ずっと前に甚だ大いなる卓あり。これは為事机に用いるものにて、紙、文反古、書籍、その他色々の小さなる道具を載せあり。その脇に書棚ありて、多くは淡りしたる色の仮綴の本を並べあり。○この画室は町外にあり。時刻は午少し過ぎたる頃なり。窓の外には鼠色の平なる屋根、高き春の空、静に揺ぐ針葉樹の頂を臨む。○画家ゲオルク・ミルネル。丈余り高からず。二十四歳ばかり。ブロンドなり。髪は柔かく、小さなる八字髭を生やしいる。黒のフロックコオトに黒のネクタイ。服は着たるばかりなりと覚しく、手にて皺を熨すように撫で、埃を払うように叩きつつ、寝間の戸を開けて登場。斯く服をいじりて窓の処まで行き暫く外を見て、急に向き返り、部屋の内を、何か探すように、歩き廻る。さて絵具入の箪笥の上の鏡を見出し、それに向きてネクタイを直さんとし、鏡に五味のかかりいるを見て、じれったげに体を動かし、ハンケチを見出し鏡を拭き、そのハンケチを椅子の上に投ぐ。さて鏡を手に取り、ネ…

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