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竜宮
りゅうぐう
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「豊島与志雄著作集 第六巻(随筆・評論・他)」 未来社
1967(昭和42)年11月10日
入力者tatsuki
校正者門田裕志
公開 / 更新2006-06-30 / 2014-09-18
長さの目安約 8 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 今時、竜宮の話などするのはちとおかしいが、また逆に、こういう時代だから、竜宮の話も少しはしてよかろう。
 竜宮といえば、先ず、「浦島太郎」の昔話が思い出される。これは誰でも知ってるもので、ここに梗概を述べるにも及ぶまい。
 ただ、注目すべきは、浦島太郎が竜宮の乙姫様から貰ってきた玉手箱のことだ。あの箱を開けたために、三年の月日が三百年の現実に還り、浦島はよぼよぼの老人になってしまった。然し、もしあの箱を開けなかったら、どうだったであろうか。浦島は永く青春を保ち得たであろうか。或るいは竜宮へまた戻れたであろうか。どちらも疑わしい。
 このようなことは、然し、この昔話では問題にしないがよかろう。青春や享楽に対する愛惜として、素直に受け取るべきものであろう。
 ギリシャ神話のパンドラの匣、浦島太郎の玉手箱、古人は面白いものを考え出した。
      *
 竜宮に関する昔話はたくさんあるが、そのなかで面白いのは、「くらげ骨なし」だ。これは、海月がその饒舌の罰を受けることが主題であるけれど、面白いのは他の点にある。この話は柳田国男氏も記述しておられるが、広く知られてはいないから、面白い点を中心にして紹介してみよう。
 この話では、「浦島太郎」の乙姫様は、もう竜王の御妃になっている。それから、やはり亀が出て来る。
 むかし、竜宮の王様の御妃が、お産の前になって、猿の肝が食べたいと、妙なことを言い出されました。その望みを、どうかしてかなえてやりたいものだと、竜王は考えられて、知恵の多い亀を呼んで、相談されました。
 亀は承知しまして、はるばる陸地の方へやって来て、海岸の小山で遊んでいる猿を見つけました。
「猿さん、猿さん、竜宮へ遊びに行かないかい。竜宮には、面白い大きな山もあれば、うまい御馳走もたくさんあるよ。行く気があるなら、わしがおぶっていってあげるがな。」
「なんだって、面白い大きな山が、竜宮にあるのかい。」
「あるとも、あるとも。さあ、わたしの背中に乗りなさい。」
 猿はうっかりだまされて、亀の背中に乗り、竜宮見物に出かけました。
 竜宮に着いてみますと、聞きしにまさる美しい御殿でした。門のところで、猿はちょっと待たされて、ぼんやり御殿の方を眺めていますと、門番の海月が笑って言いました。
「猿さん、なんにも知らないな。竜王様の御妃が、猿の肝が食べたいと仰言るので、お前は連れて来られたのだ。」
 猿はびっくりして、これはたいへんなことになったと思いました。けれど、猿も利口です。亀が出て来て、御殿の中へ案内しようとしますと、猿は困ったような様子をして言いました。
「亀さん、とんでもない忘れ物をしてきたよ。うちの山の木に、肝をかけてほしておいたのを、忘れていた。雨でも降りだしたら濡れてしまうだろう。心配だな。」
「なあんだ、猿さん、肝を忘れてきたのかい。それじゃあ、早…

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