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新たな世界主義
あらたなせかいしゅぎ
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「豊島与志雄著作集 第六巻(随筆・評論・他)」 未来社
1967(昭和42)年11月10日
入力者tatsuki
校正者門田裕志
公開 / 更新2006-07-03 / 2014-09-18
長さの目安約 13 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 戦争は終ったが、平和は到来しなかった。人類が待ち望んでいたような平和は到来しなかった。それは遠い過去に置きざりにされている。歴史の歩みは早い。将来に平和があるとすれば、それは過去のものとは異った形態のものであろう。その平和を、吾々は、そして人類は、獲得しなければならないのだ。武器は一応収められたが、破棄されたのではない。ホット・ウォアからコールド・ウォアに移行したが、この両者は紙一重の差である。前途の見通しはつき難い、というのが世界の現状である。それでも、否、それだからこそ猶更、人類は新たな平和を模索するのだ。
 こういう情勢はまだ当分続くだろう。そして恐らく、その情勢の中で、中国と日本とは対面するだろう。今のことではない。日本はまだ連合軍の保障占領下にあって、講和条約は結ばれていない。中日両国の対面は先のことだ。先のことだけれど、その対面の情景を想像することは、ちょっと……楽しい。両国はどんな態度を取るだろうか。
 終戦後、日本は急激に変りつつある。本質的にはあまり変っていないと言う人もあるが、然し、脱皮の意欲と努力とは真実なものである。是非とも脱皮しなければならないのだ。もしここで脱皮しなければ、敗戦の意義も、戦歿者達が流した夥しい血潮も、それこそ本当に無駄となる。そのことを、心ある人々は知っている。そのことを、日本は感じている。脱皮はなされるであろう。そして脱皮の後、日本の相貌は変るであろう。日本はこれまで、請わば四方壁の牢獄の中にいた。将来は、四方開け放しの日本家屋の中に住むだろう。この四方見通しのきく家屋の中から、日本は夢からさめたように、茫然と世界を見渡すことだろう。そこで、深呼吸をして、背伸びをして、起き上らねばならないのだが……。
 中国は、戦争に勝って一息ついた。そして憲法の制定とか国民大会代表議員の選挙とか、其他、近代的統一国家への歩みをふみだした。それが、たとえ戦乱の影響もあったとは言え、民国革命後三十数年たってのことだ。そして今後の国歩は更に一層の困難が予想される。
 中国はあまりに大きくあまりに広い。一の国家であるよりも寧ろ一つの社会であると言われた所以である。そこには特殊な事柄が起る。現在、上海にはインフレの暴風が吹き荒れているが、その風に直接さらされるのは、大都市と政府ぐらいなものであろう。内地の小さな町や農村や漁村など、つまり大部分は、さし当っての暴風の圏外にある。屋台骨はびくともしないのだ。然し、それも長い間にはひびがはいらないとは限らない。また、中国は対外戦に勝ちながら、対内的には武器を収めかねている。国府軍と中共軍とは実に悠長に戦線を波動させている。而もこの悠長な動きの中に、やがて、莫大なエネルギーが蓄積されるかも知れない。ドイツからギリシャからインドを経てシナに至る半月形の曲線は、世界的大地震を起す懸念のある断層なの…

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