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ジャン・クリストフ
ジャン・クリストフ
副題13 後記
13 こうき
原題JEAN-CHRISTOPHE
著者
翻訳者豊島 与志雄
文字遣い新字新仮名
底本 「ジャン・クリストフ(四)」 岩波文庫、岩波書店
1986(昭和61)年9月16日
入力者tatsuki
校正者伊藤時也
公開 / 更新2008-03-23 / 2014-09-21
長さの目安約 19 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

訳者


 改訳の筆を擱くに当たって、私は最初読者になした約束を果たさなければならない。すなわち、ロマン・ローラン全集版の「ジャン・クリストフ」についている作者の緒言の翻訳である。
 この全集決定版は、私が改訳に使用した改訂版とは、一冊につき数か所、文意に関係ない程度において、字句の微細な差異がある。しかしそれはおもに文章上のことであって、またあるところなどは、改訂版のほうが妥当とさえも思える。それゆえ私は、作者の気息がもっとも直接に通じてるものとして改訂版を、改訳の台本に選んだ。
 それはとにかく、両版はほとんどまったく同一のものであるが、旧版とはずいぶん異なっている。表現の変更などは言うまでもなく、個々の事象にたいする批判の是正さえも多少認めらるる。それで私は、言うまでもないことではあるが、旧訳を廃棄する旨をつけ加えておく。
 さて、以下は前述の作者の緒言である。


       緒言

 ジャン・クリストフは将に三十年を閲せんとしている。彼の友であり彼を慈み、普通のとおり彼よりいっそう炯眼である一人の作家が、彼のつつましい揺籃をのぞきこんで、汝は十二、三人の昵懇者の範囲外にふみ出すことはなかろうと予言したときから、彼はずいぶん道を進んだ。縦横に世界を遊歴して、現在ではほとんどあらゆる国語で語っている。彼がその旅から種々雑多な服装をしてもどってくるとき、彼の父親のほうは、それもまた三十年来世界の各通路でひどく足をすりへらしているが、時とすると彼を見分けかねることもある。そこで、父親たる私の両腕に抱かれていたころのごく小さな彼はどういう者であったか、また彼はいかなる情況のもとで世に生まれ出ることを求めたかを、ここに回想してみたいのである。

 ジャン・クリストフのことを、私は二十年間以上も考えていたのである。最初の観念は、一八九〇年の春ローマにおいて浮かんだ。最後の言葉は、一九一二年六月に書かれた。作品全体は右の期間以外にまたがる。私が見出した草案には、まだパリーの高等師範学校の学生だったころの一八八八年のものもある。
 最初の十年間(一八九〇―一九〇〇)は、おもむろな孵化であり、内的夢想であって、私は眼を開いてそれに身を任せながらも、他の仕事を実現した、すなわち、大革命に関する最初の四つの戯曲(七月十四日、ダントン、狼、理性の勝利)、「信仰の悲劇」(聖王ルイ、アエルト)、民衆劇論、その他。私にとってクリストフは、外部には見えない第二の生活であって、そこで私は、自分のもっとも深い自己と接触を保っていた。一九〇〇年の終わりまで私は、ある社会的連係によって、パリーの「広場の市」につながれていて、そこではクリストフと同様に、ひどく異邦人の感じがした。女が胎児を宿すように私が自分のうちに宿していたジャン・クリストフは、私にとっては、犯すべからざる避難所であり、「…

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