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お月様の唄
おつきさまのうた
作品ID42627
著者豊島 与志雄
文字遣い新字新仮名
底本 「豊島与志雄童話集」 海鳥社
1990(平成2)年11月27日
初出「赤い鳥」1919(大正8)年10月ー11月
入力者kompass
校正者小林繁雄、門田裕志
公開 / 更新2006-07-27 / 2014-09-18
長さの目安約 15 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

      一

お月様の中で、
尾のない鳥が、
金の輪をくうわえて、
お、お、落ちますよ、
お、お、あぶないよ。

 むかしむかし、まだ森の中には小さな、可愛い森の精達が大勢いました頃のこと、ある国に一人の王子がいられました。王様の一人子でありましたから、大事に育てられていました。王子はごくやさしい、心の美しい方でした。
 王子は小さい時から、どういうものか月を見るのが非常に好きでした。よくお城の櫓に上ったり、広いお庭に出たりして、夜遅くまで月を見ていられました。月を見ていると、亡くなられたお母様を見るような気がしました。母の女王は、三歳の時に亡くなられたので、王子はその顔も覚えていられませんでしたが、どう考えてもお母様は月に昇ってゆかれたように思われてなりませんでした。それで、じっと月を見ては亡くなられたお母様のことを考えていられました。
 王子が八歳になられた時、ある晩やはりいつものように庭に出て、一人で月を見ていられますと、どこからともなく一人の小さな、頭に矢車草の花をつけた一尺ばかりの人間が出て来ました。そして王子の前にひょっこりと頭を下げました。
 王子はびっくりされました。そんな小さな人間はまだ見たことも聞いたこともありませんので。けれども、王子は姿はやさしく心は美しい方でしたけれど、後に国王となられるほどの人でありますので、非常に強い勇気を持っていられました。それで落ち付いた声で、一尺法師にたずねられました。
「お前は何者だ?」
 一尺法師は歌うようなちょうしで答えました。
「森の精じゃ。お城のうしろの、森の精じゃ」
 王子は微笑んでまたきかれました。
「何しに来たのだ?」
「王子様をお迎えに」と一尺法師は答えました。「千草姫のお使いで、お城のうしろの森の中まで、まあずまずいらせられ」
 そう言ったまま森の精は、向こうをむいて歩き出しました。王子は非常に喜ばれて、その後について行かれました。城の裏門の所まで参りますと、門がすうっと一人で開きました。森の精と王子とがそこを出ると、門はまた元の通り音もなく閉じてしまいました。
 城のすぐうしろには、白樫の森と言われている大きな森がありました。森の精はその中にまっ直にはいってゆきました。王子も黙ってついて行かれました。ところが森の中程に来ると、ふいに森の精の姿が見えなくなりました。王子はびっくりしてあたりを見廻されますとすぐ前に森の中に広い空地が開けていまして、青々とした芝が一面に生えており、その中にいろいろな花が咲いていました。芝地のまん中には、赤や黄や白の薄い絹の衣を着、百合の花の冠をかぶった、一人の女が立っていました。そして王子を見て、微笑んで手招きしました。それを見ると王子は、何だか亡くなられたお母様を見るような気がして、恐れ気もなくその側に寄ってゆかれました。
「まあよく来られました」とそ…

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