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キンショキショキ
キンショキショキ
作品ID42630
著者豊島 与志雄
文字遣い新字新仮名
底本 「豊島与志雄童話集」 海鳥社
1990(平成2)年11月27日
初出「赤い鳥」1925(大正14)年6月
入力者kompass
校正者小林繁雄、門田裕志
公開 / 更新2006-07-27 / 2014-09-18
長さの目安約 10 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

      一

 今のように世の中が開けていないずっと昔のことです。ある片田舎の村に、ひょっこり一匹の猿がやって来ました。非常に大きな年とった猿で、背中に赤い布をつけ、首に鈴をつけて、手に小さな風呂敷包みを下げていました。
 村の広場で遊んでいた子供達は、その不思議な猿を見付けて、大騒ぎを始めました。けれども猿は平気な顔付で、別に人を恐がるふうもなく、わいわい騒ぎ立てる子供達を後にしたがえて、蔵のある大きな家の前へやってゆきました。そして、そこの庭のまん中で、首の鈴をチリンチリン鳴らしながら、後足で立ち上がっておかしな踊りを始めました。
 子供達はびっくりして、猿のまわりを円く取り囲んで、黙ってその踊を眺めました。踊が一つすむと、みんな夢中になって手を叩いてはやし立てました。すると、猿はまた別な踊を始めました。
 蔵のある家の人達は、表の庭が騒々しいので、不思議に思って出て来ました。見ると、大勢の子供達のまん中で、赤い布と鈴とをつけた大きな猿が、変な踊をおどっています。
「おや、不思議な猿ですねえ。どこの猿ですか」と家の人はたずねました。けれど子供達も、どこから来たどういう猿だか、少しも知りませんでした。
 そのうちに、猿は踊をすましました。そして、風呂敷包みからお米を一つかみ取り出して、片方の手でそれを指さしながら、しきりに頭を下げています。「お米を下さい」と言ってるようなようすです。
 家の人はそれを悟って、米を少し持って来てやりました。猿は風呂敷を広げてそれをもらい取ると、何度も嬉しそうにお辞儀をしました。それから、また別な家の方へやって行きました。子供達はおもしろがってついて行きました。
 次の家でも、猿は同じことをして、お米をもらいました。そういうふうにして、何軒か廻って風呂敷にいっぱい米がたまると、猿はそれを抱えて、一散に走り出しました。子供達も後を追っかけましたが、猿の足の早いの早くないのって、またたくうちにどこへ行ったか見えなくなってしまいました。

      二

 不思議な猿の噂は、たちまち村中の評判になりました。
「どこから来たんだろう。……どうしたんだろう。……何だろう。……不思議だな」
 けれど誰一人としてその猿を知ってる者はありませんでした。
 ところが、その翌日になると、またひょっこりとその猿がやって来ました。やはり赤い布と鈴とをつけ、小さな風呂敷包みを持っていました。そして村の家の前で踊ってみせました。がこんどは、風呂敷から野菜の切端を取り出して、それをくれと言うようなんです。村の人達は前日の噂でもうよく心得ていますので、大根だのごぼうだの芋だのいろんな野菜をやりました。猿はそういうものを風呂敷いっぱいもらいためると、また一散にどこへともなく逃げ失せてしまいました。
 さあ村中の噂はますます高くなりました。けれどやはりどう…

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