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天狗笑
てんぐわらい
作品ID42640
著者豊島 与志雄
文字遣い新字新仮名
底本 「豊島与志雄童話集」 海鳥社
1990(平成2)年11月27日
初出「赤い鳥」1926(大正15)年7月
入力者kompass
校正者小林繁雄、門田裕志
公開 / 更新2006-07-30 / 2014-09-18
長さの目安約 9 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

      一

 むかし、ある山裾に、小さな村がありました。村のうしろは、大きな森から山になっていまして、前は、広い平野にうつくしい小川が流れていました。村の人たちは、平野をひらいて穀物や野菜を作ったり、野原に牛や馬を飼ったりして、たのしく平和にくらしていました。
 村の人たちは皆仲よしでした。それで、子供たちも皆お友だちでした。大人たちがたんぼや牧場で働いている間、子供たちは一しょにあつまって仲よく遊びました。
 ある夏の初め、子供たちはいつものように、一しょにあつまって、村のうしろの森のはずれの原っぱで、土盛りをしたり輪投げをしたりして遊んでいましたが、それにもあきてくると、近頃はやりだしたにらめっこを始めました。それは遠くの町からつたわってきた遊びで、これまでまだ村には知られてなかったのです。新しい遊びなだけに、子供たちは非常におもしろがりました。
「にらめっこしようか」
「しよう」
 原っぱの中にみんなは円く輪をつくって坐りました。そして一しょにいいました。

だるまさん、だるまさん、
にらめっこしましょう、
わらうとぬかす、
一二三……うむ。

 うむ……ときばって、息をつめて、両手を膝について、眼を見張って、おかしな顔つきをしながら、ほかの者を笑わそうとするのです。初めにぷーっとふきだした者は、すぐぬかされて、また「だるまさん」が始まります。そして一番おしまいまで残った者が勝ちなのです。
 子供たちはそれを何度もくり返しました。
 いく度目かにまたみんなで、「だるまさん、だるまさん」をやりだした時です。ふいに、頭の上で、空のまん中で、わはははははと大きな笑い声がしました。
 おや……と思って、息をつめたままで、上を見上げますと、森の上からぬーっと大きな顔がのぞき出して、それが空いっぱいの大きさになって、家のような大きな眼と鼻と口とで、わはははははと笑っています。とすぐに、その顔も笑い声も消えてしまって、日の光のきらきらしてる青い空ばかりになってしまいました。
「何だろう」
 みんなびっくりして、それからふと恐くなって、村の中へ逃げかえりました。

      二

 そういうことが時々おこりました。うっかり「だるまさんのにらめっこ」をしてると、空いっぱいの大きな顔が頭の上で大きな声で笑うのです。びっくりして見上げると、そのとたんに顔も笑い声も消えてしまうのです。
 初め子供たちはそれを恐がりましたが、だんだん馴れてくると、かえっておもしろくなってきました。顔が出て来ないと、何だかさびしいような気さえしました。
「今日はきっとあの顔が出て来るよ」
「出て来るかしら」
「出て来るとも。出て来るまでやろうや」
 そしてみんなで、村のうしろの森はずれの野原にあつまって、円く輪になって坐りながら、「だるまさんのにらめっこ」を始めました。が何度やっても、空…

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