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夢の卵
ゆめのたまご
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「豊島与志雄童話集」 海鳥社
1990(平成2)年11月27日
初出「婦人公論」1923(大正12)年3月
入力者kompass
校正者小林繁雄、門田裕志
公開 / 更新2006-07-21 / 2014-09-18
長さの目安約 19 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

      一

 遠い昔のことですが、インドの奥に小さな王国がありました。その国の王様の城は、高い山のふもとに堅い岩で造られていました。前にはきれいな谷川が流れており、後ろには広い森が茂っていました。谷川の水はいつも冷たく澄みきって、苔むした岩の間にさらさらと音を立てていますし、森の奥には何百年となき古い木が立ち並んで、魔物が住んでると言われていて、ほとんど誰も足を踏み入れる者がありませんでした。
 その城に、美しい若い王子が一人ありました。朝のうちは、えらい学者達についていろんなことを学び、午後になると、城の中の庭を駆け廻ったり、城の前の谷川で遊んだり、また時には、谷川の向こうの町やその近くの野原を、象の背に乗って散歩しました。晩には、国王に仕えている年とった侍女達から、おもしろい話をききました。そして夜眠ってからは、さまざまな夢をみました。鳥や獣や虫や花や化け物や、そのほか見たことも聞いたこともない不思議なものが、夢の中に出てきました。
 それらの夢をみることが、王子にとっては一番の楽しみでした。そして翌朝になると、侍女や学者達に、また国王や女王へまでも、夢の話をしてきかせました。水の精から銀の魚をもらったことだの、真珠の眼玉を持ってる小鳥のことだの、空いっぱいにまっ赤な花を開いた大きな草のことだの、奇妙な声で歌いながら踊る虫のことだの、五色の息を吐く怪物のことだの、自由自在に空を飛び廻る仙人のことだの、いくつもいくつもありました。
 王子があまり夢のことばかり話すものですから、国王はある時王子をたしなめました。
「そんなに夢のことばかり考えないで、お前はもっと確かなことに心を向けなければいけない。学者達についてもっと熱心に勉強しなければいけない。学問というものは、みな確かな本当のことばかりで、深くはいると、夢よりもいっそう不思議なおもしろいものだ。ところが夢の方は、みな不確かな嘘ばかりで、眼がさめると消えてなくなるではないか」
 けれど王子にとっては、夢もやはり学問と同じように、確かな本当のことであると思われました。ただ、国王から言われた通り眼がさめると消えてなくなるのだけが不満でした。もし、眼がさめてからも夢が消えなかったら……! 夢を捕えることが出来たなら……!
「そうだ、夢を捕えてやろう」と王子は考えました。
 ところがどうして夢を捕えてよいか、いくら考えてもわかりませんでした。それで王子は学者達に、夢を捕える仕方をたずねました。けれどいくら学者達が知恵をしぼっても、そんなことはとても考え出されませんでした。
「夢を捕えることばかりは、私共の知恵も及びませぬ」と学者達は答えました。
 それでも王子は力を落としませんでした。この上は自分一人で夢を捕えてやろうと決心しました。夜寝る時、一生懸命にその覚悟をしておいて、それから眠りました。そして夢の中…

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