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雷神の珠
らいじんのたま
作品ID42648
著者豊島 与志雄
文字遣い新字新仮名
底本 「豊島与志雄童話集」 海鳥社
1990(平成2)年11月27日
入力者kompass
校正者小林繁雄、門田裕志
公開 / 更新2006-07-21 / 2014-09-18
長さの目安約 6 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

      一

 むかし、世の中にいろんな神が――風の神や水の神や山の神などいろんな神が、方々にたくさんいた頃のこと、ある所に一人の長者が住んでいました。その長者が、ある日、他国から来た旅人から、次のような話を聞きました。
 ――雷の神が空から落ちると、その落ちたところに大きな穴があいて、その穴の底に、まっ白な珠が残る。それは世にも不思議な珠で、雷の神の宝物にちがいない。なぜなら、落ちた雷の神が黒雲に包まれて空に昇ってゆく時、黒雲はその珠をも一緒に包んで持っていってしまう。だから、その珠を見ようとすれば、雷の神が落ちてすぐに駆けつけなければいけない。けれども、黒雲に包まれてるうちだから、なかなか見つからない。世界中にまだ誰もよく見た者がない。それほど珍らしい不思議な珠だ。
 長者はその話を聞いて考え込みました。それから、その不思議な珠をどうにかして手に入れたいと思いました。言うまでもなく長者のところには、金や宝が蔵いっぱいありましたけれど、世界中に誰も見た者がないというほど、珍らしい珠は一つもありませんでした。
「その不思議な珠を手にいれたいものだな。そうすれば私は世界一の長者になれるわけだ」
 そして長者は、いろいろ工夫をこらしましたけれど、どうもうまい考えも浮かびませんでした。雷の神が落ちたところへ、落ちると同時に駆けつける、そんなことがなかなか出来るものではありません。雷の神はいつどこへ落ちるかわかりませんし、また、ぐずぐずしていれば珠と一緒にすぐ空へ昇っていってしまうのです。
「これは困った」
 そして幾日も考えあぐんだ末、長者はとうとうある計画を立てました。
 長者の庭のまん中に、大きな高い木が一本ありました。雷の神は何でも高いものの上に落ちるのですから、その庭の木に落ちないとは限りません。そこで、もし雷の神がその木に落ちて、それから地面に転がり落ちたら、木の根下に大きな穴があいて、そこに不思議な珠が落ちるだろう。だから、雷の神を一緒に生捕ってしまったら、その珠も手に入れることが出来るだろう。
「そうだ、そうだ」
 そこで長者は、雷の神と珠とを一緒に生捕る工夫をしました。大勢の家来達に言いつけて、丈夫な縄の大きな網をこしらえさせ、これを庭の大木のまわりに張らせ、網につけた綱を一本引けば、網が大木の根下にすっかりかぶさってしまうようにしました。
「こうしておけばうまくゆくにちがいない」
 そして長者は、入道雲が空に出て来て雷が鳴り出す日には、庭の隅に飛び出して、網の綱を握りしめ、雷の神が大木に落ちるのを待ち受けました。

      二

 ところが、長者がいくら待ち受けていても、雷の神は長者の庭の木に落ちませんでした。
 というわけは、雷の神は空を鳴りはためきながら、どこに落ちてやろうかと見下しているうちに、長者の庭の木に仕掛けがしてあるのを気づ…

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