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自然現象の予報
しぜんげんしょうのよほう
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「寺田寅彦全集 第五巻」 岩波書店
1997(平成9)年4月4日
初出「現代之科学 第四巻第三号」1916(大正5)年3月15日
入力者Nana ohbe
校正者浅原庸子
公開 / 更新2005-08-29 / 2016-02-25
長さの目安約 22 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 自然現象の科学的予報については、学者と世俗との間に意志の疎通を欠くため、往々に種々の物議を醸す事あり。また個々の場合における予報の可能の程度等に関しては、学者自身の間にも意見は必ずしも一定せざる事多し。左の一篇は、一般に予報の可能なるための条件や、その可能の範囲程度並びにその実用的価値の標準等につきて卑見を述べ、先覚者の示教を仰ぐと同時に、また一面には学者と世俗との間に存する誤解の溝渠を埋むる端緒ともなさんとするものなり。元来この種の問題の論議は勢い抽象的に傾くが故に、外観上往々形而上的の空論と混同さるる虞あり。科学者にしてかくのごとき問題に容喙する者は、その本分を忘れて邪路に陥る者として非難さるる事あり。しかれども実際は科学者が科学の領域を踏み外す危険を防止するためには、時にこれらの反省的考察が却って必要なるべし。特に予報の問題のごとき場合においては然りと信ず。余が不敏を顧みずここに二、三の問題を提起して批判を仰ぐ所因もまたこれに外ならず。ただ徒らに冗漫の辞を羅列して問題の要旨に触るるを得ざるは深く自ら慚ずる所なり。これに依って先覚諸氏の示教に接する機を得ば実に望外の幸いなり。

         一

 ある自然現象の科学的予報と云えば、その現象を限定すべき原因条件を知りて、該現象の起ると否とを定め、またその起り方を推測する事なり。これは如何なる場合に如何なる程度まで可能なりや。この問題が直ちにまた一般科学の成立に関する基礎問題に聯関する事は明らかなり。しかし因果律の解釈や、認識論学者の取扱うごとき問題は、余のここに云為すべき所にあらず。ただ物理学上の立場より卑近なる考察を試むべし。
 厳密なる意味において「物理的孤立系」なるものが存せず、すなわち「万物相関」という見方よりすれば、一つの現象を限定すべき原因条件の数はほとんど無限なるべし。それにかかわらず現に物理学のごときものの成立し、且つ実際に応用され得るは如何。これは要するに適当に選ばれたる有限の独立変数にてある程度までいわゆる原因を代表し、いわゆる方則によりて結果の一部を予報し得るに依る。これにはいわゆる原因と称するものの概念の抽象選択の仕方が問題となる。これは結局経験によって定まるものにして、原因の分析という事自身が既に経験的方則の存在を予想する事は明らかなり。物理的科学発展の歴史に溯れば、到る処かくのごとき方則の予想によって原因の分析、すなわち最も便宜なる独立変数の析出に勉めたる痕跡を見出し得べし。しかしこの試みが成効して今日の物理的自然科学となれり。力学における力、質量等のごとき、熱力学における温度エントロピーのごときこれなり。これらの概念と定義とが方則の云い表わしと切り離し難きはこのためなり。物理的自然現象を限定すべき条件等がすべてこれらの有限なる独立変数にて代表され得るや否やは別問題とし…

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