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方則について
ほうそくについて
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「寺田寅彦全集 第五巻」 岩波書店
1997(平成9)年4月4日
初出「理学界 第十三巻第四号」1915(大正4)年10月1日
入力者Nana ohbe
校正者松永正敏
公開 / 更新2006-09-05 / 2016-02-25
長さの目安約 18 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 科学の方則は物質界における複雑な事象の中に認められる普遍的な連絡を簡単な言葉で総括したものである。事実の言い表わしであって権利も義務も訓戒も含まれていない。しかし今ここで方則の定義や法律と方則との区別などを喋々しようとは思わぬ。ただかくのごとき方則というものが如何にして可能であるかという事に関して浅薄ながら半面観を試みたい。
 方則が可能であるためには宇宙の均等という事が必要である。時と空間に対して不変な事実が認め得られる事が必要である。かくのごとき事実が吾人に認め得られるというのは不思議な事ではあるまいか。
 華厳経に万物相関の理というのが説いてあるそうである。誠に宇宙は無限大でその中に包含する万象の数は無限である。しかしてこれらは互いになんらかの交渉を有せぬものはない。風が吹いて桶屋が喜ぶという一場の戯談もあながち無意義な事ではない。厳密に云えば孤立系(isolated system)などというものは一つの抽象に過ぎないものである。例えば今一本のペンを床上に落とせば地球の運動ひいては全太陽系全宇宙に影響するはずである。一本のマッチをすればその光は全宇宙に瀰漫してその光圧は天体の運動に幾分の変化を生じなければならぬはずである。少なくも吾人の科学に信拠すればそうなるはずである。また全天体の片隅で行われているあらゆる変化は必ず吾人の身辺にも幾分の影響を及ぼしているはずである。宇宙間無限の物象の影響を受けている身辺の現象について如何にして有限な言葉をもって何事かを云い表わす事が出来るであろうか。いわんや無限無窮の空間と時とに通じて普遍的な方則などというものが如何にして可能であろうか。
 これは必ずしもパラドックスではない。
 数学の方で収斂級数というものがある。第一項に第二項を加え更に第三第四と無限の項を附け加えると、その総和は有限なものになる。例えば

1+1/22+1/32+1/42+………………… ad inf.

のごときものがある。数において無限なものが蓄積してもその結果は有限である。しかしかくのごとく収斂するためには逐次の各項の間に一定の条件が満足されなければならぬ。同じような級数でも、

1+1/2+1/3+1/4+………………… ad inf.

は無限大となる。
 掌中のペンに働く力は種々ある。第一に重要なものは地球の全質量がこれに及ぼす重力である。すなわち普通にいわゆるペンの目方である。精しく云えばこの中には身辺にある可動性の器物や人間や一切のものの引力も加わっていてこれらが動けばそれだけの影響はあるはずである。ただこれらの影響は地球全体に比べて小さい事も確実である。次には雰囲気の引力から起るものであるが、これは地面にある物に対しては大体において零となるはずである。次には月、太陽、諸遊星を始めあらゆる天体の引力も加わる。これらは質量が大なる…

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