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虹猫の大女退治
にじねこのおおおんなたいじ
作品ID42758
著者宮原 晃一郎
文字遣い新字旧仮名
底本 「日本児童文学大系 第一一巻 楠山正雄 沖野岩三郎 宮原晃一郎集」 ほるぷ出版
1978(昭和53)年11月30日
初出「赤い鳥」1927(昭和2)年9月
入力者鈴木厚司
校正者noriko saito
公開 / 更新2004-09-13 / 2014-09-18
長さの目安約 11 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 木精の国をたつて行つた虹猫は、しばらく旅行をしてゐるうち、ユタカの国といふ大へん美しい国につきました。
 こゝはふしぎな国でした。大きな森もあれば、えもいはれぬ色や匂ひのする花の一ぱいに生えた大きな/\野原もありました。空はいつも青々とすみわたつて、その国に住まつてゐる人たちはいつも何の不平もなささうに、にこ/\してゐます。でも、たつた一つのことが気にかゝつてゐるのでした。
 そのわけは、この国のまん中の、高い岩のがけの上に、一つの大きなお城がたつてゐます。そのお城には――土地の人たちが虹猫に話したところによると――一人の悪い大女がゐて、この国の人たちをさかんにいぢめ、しじう、物を盗んで行きます。ひどいことには、子供までもさらつて行くのでした。

 虹猫は、じつさいに、目のあたりこの大女を見たといふ人には、誰ともあひませんでした。が、大女の恐ろしい顔や、そのすることについて、身の毛もよだつやうな話を聞かされました。
 なんでも、その大女は、あたりまへの人間のせいの三倍も高くて、その髪はふとい繩のやうによれて目からは焔が吹き出してゐる。くさめをすると、まるで雷が鳴るやうな、凄い音がして、木や草は嵐にあつたやうに吹きなびかされる。ぢだんだをふむと小さな村なんか一ぺんで、ひつくり返つてしまふ。そればかりでなく、その大女は魔物だけあつて、魔法をつかふことができるといふので、土地の人たちは何よりもそれを一ばん恐がつてゐました。

 暗い夜など、大女は六疋の竜にひかせた車にのつて、お城から降りてくるといふのでした。で、土地の人たちはそのすごい音を聞くと、めい/\自分の家ににげこんで戸をしめ、窓に錠をかけて、ぶるぶるふるへてゐるのでした。うちにゐても、納屋だの倉だの小屋だのを大女が家さがしして、牛や馬をひき出して行く音が聞えるのでした。
 さうかと思ふと、闇のうちに大きな声がして、
「こら、きさまたちの宝を出せ、出さないと子供をとつて行くぞ。」といふ叫びが聞えるのです。土地の人たちは、仕方なしに窓を開けて、こは/″\、その宝物を外に投げ出すのです。
 又ときには、いつか知ら、立札が出て、これ/\の品物をお城の門のところへ持つて来て置かないと大女が降りて来て、みんなをひどい目にあはすぞと書いてあることもあります。土地の人たちは、その立札どほり品物を持つて行つて、お城の門へ置いて来ますが、そのたんびに、そこで見て来たいろんな恐ろしい話を伝へます。

 或人は、大女の靴を女中が磨いてゐるのを見たと言ひます。その靴は、ちやうど乾草をつんだ大きな荷車ほどあつたといふ話です。
 又他の者は、大女が洗濯物を繩に干してゐるのを見て、腰をぬかさんばかりに驚いて、走つて自分の家に帰つたが、一週間ばかりは起きることができなかつたとも言ひます。
 けれども、一ばん悪いことは家のそばを少し遠くは…

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