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言葉の不思議
ことばのふしぎ
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「寺田寅彦全集 第七巻」 岩波書店
1961(昭和36)年4月7日
初出「鉄塔」1932(昭和7)年12月、1933(昭和8)年4月、7月、8月
入力者Cyobirin
校正者松永正敏
公開 / 更新2006-09-05 / 2014-09-18
長さの目安約 22 ページ(500字/頁で計算)
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本文より



「鉄塔」第一号所載木村房吉氏の「ほとけ」の中に、自分が先年「思想」に書いた言語の統計的研究方法(万華鏡所載)に関する論文のことが引き合いに出ていたので、これを機縁にして思いついた事を少し書いてみる。
「わらふ」と laugh についてもいろいろなおもしろい事実がある。laugh は (AS.)hlehhan から出たことになっているらしいが、この最初のhがとれて英語やドイツ語になり、そのhが「は」になり、それから「わ」になったと仮定するとどうやら日本語の「笑ふ」になりそうである。ギリシアの gelao もgが gh になり、それからgがとれて、「は」「わ」と変わればやはり日本語になるからおもしろい。(L.)rideo, (Fr.)rire は少しちがうが「ら」行であるだけはたしかである。「げらげら笑ふ」「へらへら笑ふ」というから g+l や h+l のような組み合わせは全く擬音的かもしれない。マレイの glak も同様である。馬の笑うのは ilai でこれは日本に近い。
「あざ笑ふ」の「あさ」は「あさみ笑ふ」の「あさ」かと思うがこれは(Skt.)√hasに通じる。一人称単数現在なら hasami だからよく似ている。h[#挿絵]sita は笑うべき事で「はしたない」に通じる。「はしゃぐ」が笑い騒ぐ事で、「あさましい」も場合によると「笑ひ事」であるのもおもしろい。
 セミティックの方面でも (Ar.)basama は「微笑する」で「あさむ」「あさましい」と似ている。しかし「笑ふ」の dahika はむしろ「たはけ」に似ている。(Ar.)fariha は「喜ぶ」で「わらふ」に似ている。
「あさましい」はまた (Skt.)vismayas で「驚く」ほうにも通じるが、それよりも元の smi, smaya で微笑にもなる。
 (Skt.)garh は非難するほうだが軽蔑して笑うほうにもなりうるのである。これも g+r である。そう言えば「愚弄」もやはり g+r だから妙である。
「べらぼう」も引き合いに出たが、これについて手近なものは (Skt.)prabh[#挿絵]また parama でいずれも「べらぼう」の意がなくはない。しかしまた、「強い」ほうの意味の bala から出た balavat だって似ていなくはない。「珍しい」「前例のない」ほうの apr[#挿絵]pya, apurva でも、やはり日本式ローマ字で書くと p+r+b(m) の部類にはいる。これらはサンスクリトとしてはきわめて明白に、それぞれ全く異なる根幹から生じたものであるのに、音のほうではどこか共通なものがあり、同時に意味のほうにも共通なものがあるから全く不思議な事実である。
 英語の brave や bravo も「べらぼう」の従兄弟であるが、これはたぶん (L.)barbarus と関…

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