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新緑の庭
しんりょくのにわ
著者
文字遣い新字旧仮名
底本 「芥川龍之介全集 第十一巻」 岩波書店
1996(平成8)年9月9日発行
初出「中央公論」1924(大正13)年6月
入力者もりみつじゅんじ
校正者松永正敏
公開 / 更新2002-10-06 / 2014-09-17
長さの目安約 1 ページ(500字/頁で計算)
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本文より




 桜 さつぱりした雨上りです。尤も花の萼は赤いなりについてゐますが。

 椎 わたしもそろそろ芽をほごしませう。このちよいと鼠がかつた芽をね。

 竹 わたしは未だに黄疸ですよ。…………

 芭蕉 おつと、この緑のランプの火屋を風に吹き折られる所だつた。

 梅 何だか寒気がすると思つたら、もう毛虫がたかつてゐるんだよ。

 八つ手 痒いなあ、この茶色の産毛のあるうちは。

 百日紅 何、まだ早うござんさあね。わたしなどは御覧の通り枯枝ばかりさ。

 霧島躑躅 常――常談云つちやいけない。わたしなどはあんまり忙しいもんだから、今年だけはつい何時にもない薄紫に咲いてしまつた。

 覇王樹 どうでも勝手にするが好いや。おれの知つたことぢやなし。

 石榴 ちよいと枝一面に蚤のたかつたやうでせう。

 苔 起きないこと?
 石 うんもう少し。

 楓 「若楓茶色になるも一盛り」――ほんたうにひと盛りですね。もう今は世間並みに唯水々しい鶸色です。おや、障子に灯がともりました。



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