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秘密の庭
ひみつのにわ
原題THE SECRET GARDEN
著者
翻訳者直木 三十五
文字遣い新字新仮名
底本 「世界探偵小説全集 第九卷 ブラウン奇譚」 平凡社
1930(昭和5)年3月10日
入力者京都大学電子テクスト研究会入力班
校正者京都大学電子テクスト研究会校正班
公開 / 更新2009-08-23 / 2014-09-21
長さの目安約 38 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

        一

 巴里の警視総監であるアリステード・ヴァランタンは晩餐におくれた。そして来客達はもう彼より先きに来はじめていた。それで忠実な執事のイワンがお相手をしていた。イワンは顔に刀傷の痕のある、そして灰色の口髭と色別のつかないような顔色をした老人で、いつも玄関のテーブルに――そこには武器類がかかっている――に控えている。この家は主人のヴァランタンと同様に風変りで有名である。旧い家で、高い外塀と、セイヌ河の上に乗出しているヒョロ高いポプラの樹とを持っているがこの家の建築上の風変りな点は――そしておそらくはその警察的価値は――すなわち、この家には、イワンと武器とががん張ってる表の入口からするのでない以上は、はいっても出たというものがない事だ。庭は広くてよく手入れが行き届いていた。そして家の中からその庭への出口はたくさんあった。が庭から世の中への出口がないのだ。周囲は高くて滑々で登る事の出来ない塀にとりかこまれて、塀の上には盗難よけの釘が列をつくっている。この庭は、百人に近い犯罪家に首をつけ狙われている男にとっておそらく悪るい庭ではない。
 イワンが来客への申訳によると主人から先刻電話がかかって、十分ほど遅くなるからとの事であった。ヴァランタンは実は死刑執行やその他の厭わしい事務についての最初の手配りをしていたのだ。そうした仕事は腹の底から不快なことであったが彼はそれをテキパキと片づけるのが常であった。犯人の追跡には無慈悲な彼も刑罰には非常に寛大であった。彼が仏蘭西の――否、広く全欧羅巴にまたがっての――警察制度の支配者となって以来、彼の影響は、名誉にも刑罰の軽減、監獄の浄化等いう方面に及んだことである。彼はフランスの偉大な人道主義的自由思想家の一人であった。
 ヴァランタンが帰宅した時はもう燕尾服を着て胸に赤バラをかざしていた――上品な姿――黒い髯にはすでに白いものを交ぜていた。彼は家にはいると真直に、庭に面した自分の書斎へ通った。庭への出口が開いているので、彼は事務机の上の小函に注意深く鍵をかけて後、しばらくその戸口の所で庭を眺めた。鋭どい月が嵐の名残のちぎれ雲と戦っていた。ヴァランタンは科学者肌の人には珍ずらしい物想わし気な面持でそれを見つめた。たぶんこうした科学者的性格の人間には生活上に何か非常に恐畏すべき問題の起るような場合、心霊上の予感があるらしい。しかしそうした一種の神秘な気分から、少なくとも彼はたちまち我れにかえった。自分は遅れたこと、客がすでに来はじめている事をよく知っているので。彼は客間へはいってちょっと見渡したが、今夜の主賓が未だ来ていない事がわかった。外の主だった人は皆揃っていた。そこには英国大使のガロエイ卿がいた――林檎のような赤ら顔をした癇癪持らしい老人で、青いリボンのガーター勲章をつけている。ガロエイ夫人もいた。銀色の髪の…

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