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イワンの馬鹿
イワンのばか
原題SKAZKA O IVANE-DURAKE
著者
翻訳者菊池 寛
文字遣い新字新仮名
底本 「小學生全集第十七卷 外国文藝童話集上卷」 興文社、文藝春秋社
1928(昭和3)年12月25日
入力者京都大学電子テクスト研究会入力班
校正者京都大学電子テクスト研究会校正班
公開 / 更新2004-06-14 / 2014-09-18
長さの目安約 58 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

        一

 むかしある国の田舎にお金持の百姓が住んでいました。百姓には兵隊のシモン、肥満のタラスに馬鹿のイワンという三人の息子と、つんぼでおしのマルタという娘がありました。兵隊のシモンは王様の家来になって戦争に行きました。肥満のタラスは町へ出て商人に[#底本では「に」が重複]なりました。馬鹿のイワンと妹のマルタは、家に残って背中がまがるほどせい出して働きました。兵隊のシモンは高い位と広い領地を得て、王様のお姫様をお嫁さんに貰いました。お給金もたくさんだし領地から上る収入も大したものでしたが、彼はそれを、うまくしめくくっていくことが出来ませんでした。おまけに主人がもうけたものをお嫁さんが滅茶に使ってしまうので、いつも貧乏していなければなりませんでした。
 そこで兵隊のシモンは自分の領地へ出かけて行って収入をあつめようとしました。すると執事は言いました。
「収入どころか、牛も馬も鋤も鍬もありません。何よりも先にそれを手に入れなくちゃいけません。そうすりゃ、やがてお金も入って来るでしょう。」
 そこでシモンは父親のところへ行って言いました。
「お父さん、あなたはお金持なのに私にはまだ何もくれませんでした。あなたの持ちものを分けてその三分の一を私に下さい。そうすりゃ私の領地の手入をすることが出来ますから。」
 すると年寄った父親は言いました。
「お前は家のためになることを何もしたことはない。それにどうして三分の一やることが出来よう。第一イワンやマルタにすまない。」
 と、シモンは、
「イワンは馬鹿です。それにマルタはお嫁に行く年はとっくに過ぎていて、おまけにつんぼでおしです。あれ等に財産を持たしたってそれが何になるでしょう。」
と言いました。おじいさんは、
「じゃ、イワンが何というか聞いてみよう。」
と言いました。
 イワンは、
「兄さんの欲しいだけ上げなさい。」
と言いました。
 そこで兵隊のシモンは父親から分前を貰ってほくほくもので自分の領地へうつしまた王様のところへ行って仕えました。
 肥満のタラスもたくさんのお金をもうけてある商人の家へおむこさんに行きましたが、それでもまだお金が欲しいと思いました。そこでやはり父親のところへ出かけて行き、
「私にも私の分け前を下さい。」
と言いました。
 しかし父親はタラスにも分けてやりたくなかったので、
「お前は、何一つ家へは持って来なかった。この家にあるものは、みんなイワンがかせぎ上げたのだから、どうしてあれや娘によくないことが出来よう。」
と言いました。が、しかしタラスは言いました。
「イワンに何が入るものですか、あいつは馬鹿です、誰だって嫁に来るものはありません。またあのおしだって何にもいりはしませんよ。」
 そしてイワンに向って、
「おいイワン。おれに穀物を半分おくれよ。おれは道具なんか貰おうとは思わな…

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