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土佐の地名
とさのちめい
作品ID43081
著者寺田 寅彦
文字遣い新字新仮名
底本 「寺田寅彦全集 第六巻」 岩波書店
1997(平成9)年5月6日
初出「土佐及土佐人」1928(昭和3)年1月
入力者Nana ohbe
校正者浅原庸子
公開 / 更新2005-08-29 / 2014-09-18
長さの目安約 7 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 地名には意味の分らないのが多い。これはむしろ当然の事である。地名は保存されつつ永い年代の間に転訛する、一方で吾々の通用語はまたこれと別の経路を取って変遷するからである。こういう訳であるから地名の研究が民族の過去の歴史を研究する上に重要な意義をもつのは勿論である。しかしそういう意味から地名を研究する場合には、現在の通用語をもって解釈しようとするのでは、無駄でないまでも有効でない。結局循環論理のようなものに陥ってしまう恐れがある。また旧い記録例えば記紀のごときものの記事にあるような語源説が信用出来ないという事は既に学者の明白に認めているところである。それではほとんど唯一の有意義な方法と考えられるのは、現在日本人と隣接する民族の国語との関係を捜す事である。
 こういう立場からすれば例えば土佐の地名を現在あるいは過去の日本語で説明しようとするよりは、むしろこれらの地名とアイヌ、朝鮮、支那、前インド、マレイ、ポリネシア等の現在語との関係を捜す方が有意義である。
 こういう研究は既にその方の専門家によっては追究されている。自分はこの方には全然門外漢であるが、自分の専門と多少の関係があるので少しばかり土佐の地名を考えてみた。勿論まだ何ら纏った結果を得た訳ではないが、少しばかり考えた断片的の結果を左に記して、専門家やまた土佐の歴史に明るい先輩諸氏の示教を仰ぎたいと思う。
 誤解をなくするために断っておきたいと思う事は、左に地名と対応させた外国語は要するにこじつけであって、ただある一つの可能性を示唆し、いわゆる作業仮説としての用をなすものに過ぎないという事である。また例えばアイヌ語との関係を示しても、それだけでは現在のアイヌと土佐と直接の交渉があったという証拠には決してならない事も明白である。
 最近に坪井博士はその著『我が国民国語の曙』において四国の地名についても多少の考証をしておられる。それは主として、チャム、モン、クメール、マラヨポリネシア系の言語によって解釈を試みておられる。しかし自分の見るところでは、アイヌ語らしい地名もかなり見受けられるからここには主にその方のものを並べてみる事にする。
種崎 アイヌの「タンネ」は長い。「サッカイ」は砂堆ですなわち長い砂嘴。(大阪近くの境も出雲の境も砂嘴か。)
孕 「パラモイ」は広き静処で湾の名になる。しかしチャムで「ハラム」は閉鎖の義であるからその方かもしれぬ。
比島 「ピ」は小の義、「シュマ」は石。
サ島 「サ[#挿絵]」は乾、乾出せる岩礁か。
万々 「メム」は沼またラグーン。
物部 「ポロペッ」大河。
韮生 「ニナラ」高原。また「ニ」樹「オロ」豊富。
夜須 「ヤシ」網を引く。
別府 「ペッポ」小河。
別役 「ペッチャ」河「クッ」咽喉。またチャムで「ボ[#挿絵]」は遮断、「チョ[#挿絵]」は山。
仁西 「ニセイ」絶壁。
野見 …

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