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ヴェルダン
ヴェルダン
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「世界紀行文学全集 第二巻 フランス編Ⅱ」 修道社
1959(昭和34)年2月20日
入力者門田裕志
校正者松永正敏
公開 / 更新2007-09-10 / 2014-09-21
長さの目安約 16 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

      一

 世界情勢の高速度的推移の中には、今ごろヴェルダンの戦場を見物したりすることを何だか Up-to-date でなく思わせるようなものがある。私たちがヴェルダンに行ったのは咋年(一九三九年)の初夏、まだ今度の大戦の始まらないうちではあったけれども、その時でさえすでに現代から懸け離れた一種の古戦場でも弔うような気持があった。ところが、それから二三箇月もすると、いよいよ新しい戦争の幕は切って落され、ヴェルダンを古戦場の如く感じる気持は一層強くなった。
 丁度パリに来ていられた姉崎先生をお誘いした時、先生は一九一八年の停戦直後にヴェルダンを訪問されたきりなので、二十年後のヴェルダンがいかに変化しているかに興昧を持っていられるようだった。私たちはヴェルダンは初めてで、ドイツに行っても、イタリアに行っても、フランスでも、イギリスでも、何となしに底気味のわるい空気が漂っていて、いつ戦雲が捲き起らないとも知れなかったので、不安な未来を予想しながら二十年前の世界悲劇の痕迹を踏査することに少からぬ興味を持った。
 その日、朝早く、自動車で出かけ、夜に入ってパリに帰りついたのだが、帰りにランスとソアッソンの寺を見ようという計画を立てていたので、ヴェルダンには小半日きりいなかった。それでも自由のきく車で見て廻れたおかげで、遊覧バスなどで見るよりはゆっくり見られた。
 パリを出て東へ一直線に駈けらせると三十分ほどでモーの町を通り過ぎた。マルヌ河に沿うた古い町で、パリに供給する小麦・チーズ・卵・家禽・野菜などの多くは此処から運ばれると聞いていたが、通りすがりに一番に目を惹いたものは、街路の左側に高い方塔を一つ聳やかしたゴティク様式の古いカテドラルだった。八百年の星霜を経てどす黒く寂び、雅致を失わない程度にがっちりと力強く立ってる風貌が私たちにしばらく車を停めさせた。覗いて見ると、薄暗い内陣の両側には型の如く天井の一段低い側堂が付いて、外陣は一つきりで、唱歌席の装飾なども簡古で似合わしく思われた。しかし、行手を急いでいて、ゆっくり見ていられなかったから、前の荒物屋みたいた店で絵端書を買って思い出のよすがとすることにした。
 それからマルヌを渡り、美しい田舎道を百二三十キロも走ったと思う頃、シャーロンの町を通った。毛織物の名産地で、此処にも古いカテドラルがあるということだったが、目につかないで通り過ぎ、それから先は方向を少し北へ振って行くように道がついていた。レジレットという村のあたりからは樹林が目立って多くなり、道も上ったり下ったり、曲りくねったりして、ショファにはうるさいかも知れないが、見て通る者には今までの平たい郊野よりは趣があってよかった。道の両側には高い並木がつづき、その間から緑の牧場や畑が透いて見えた。
 クレルモンの手前で、道ばたの大きな桜の木に長い梯子を二…

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