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シェイクスピアの郷里
シェイクスピアのきょうり
作品ID43095
著者野上 豊一郎
文字遣い新字新仮名
底本 「世界紀行文学全集 第三巻 イギリス編」 修道社
1959(昭和34)年7月20日
入力者門田裕志
校正者松永正敏
公開 / 更新2007-09-06 / 2014-09-21
長さの目安約 28 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

  I pray you, let us satisfy our eyes
With the memorials and things of fame
That do renown this city;
――Twelfth Night

    一

 ストラトフォード・オン・エイヴォンへは、なるべくシェイクスピア祭の季節に行きたいと思っていたところへ、折よく水沢君と工藤君に誘われ、水沢君の車で出かけようということになった。ロンドンからストラトフォードまでは九十マイルそこそこで、汽車で行っても四時間ぐらいなものだけれども、イギリスの田舎はどこも綺麗で公園のようだから、自由のきく車でドライヴすることができたら、それに越したことはないのだ。
 時は四月の中旬で、空を見ても樹を見てもなんとなく春めいて来たし、それに私のイギリスでの講義もやっと片づいたし、ローマにいた長男からは大学で講座を持つことにきまったといって来たし、つい二三日前、日本からの便りでは、二男は福岡へ転任して、これも新設の物理学の講座を持つことになるらしく、三男も工学部に入学ができたという知らせがあったので、私たちは久しぶりでほがらかな気持になって旅に出かけられたのであった。
 誰かが、ストラトフォード・オン・エイヴォンのことをイギリスのメッカだと言っていたが、少くともイギリス文学をかじってる者にとっては、シェイクスピアの生れた土地、シェイクスピアの骨の埋もってる土地を見に行くのは、回教徒が聖地へ巡礼に出かけるようなものである。私にとっても、これまでたびたびシェイクスピアについて講義をしたこともあり、東京を立つ前には『マクベス』の翻訳を出したばかりではあり、『オセロー』にも手をつけたままで出かけて来たようなわけではあり、何かにつけてシェイクスピアには世話になってるので、かたがたお詣りしなくては義理が立つまいと思われた。

    二

 その日(十一日)午後二時ごろ、水沢君と工藤君と、水沢君が操縦して、私たちのハムステッドの家に迎えに来てくれた。
 ロンドンから郊外へ出て、磨き立てたようなアスファルト道路を一直線に西北の方へ駈けらして行くと、すぐ例の緑の絨氈を敷きつめたような牧場が行手にひろがり、そこここに桃の花が咲いていたり、黄いろいえにしだの花がかたまっていたり、その間に鶏が群れていたり、牛が寝ころんでいたり、羊が歩きまわっていたり、農家のとびとびに見える岡の上には寺の尖塔が木立の間からのぞいていたり、平和なのどかな画面がつぎつぎに展開して来るのが飽きることなく眺められた。
 詩人クーパーの生れたバーカムステッドという小さい村を通るといかにも古い家々が太い材木の骨を壁の上に露出して、屋根瓦は苔で青くなって居り、前庭にはダフォディルや、名前は知らないが紫の美しい草花などが咲き出していた。気の弱い孤…

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