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処女の木とアブ・サルガ
おとめのきとアブ・サルガ
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「世界紀行文学全集 第十六巻 ギリシア、エジプト、アフリカ編」 修道社
1959(昭和34)年6月20日
入力者門田裕志
校正者松永正敏
公開 / 更新2007-09-02 / 2014-09-21
長さの目安約 21 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

    一

 カイロに着いた翌日、町の北東五マイルほどの郊外にある昔のヘリオポリス(日の町)の遺跡にウセルトセン一世の建てたエジプト現存第一の大オベリスクを見に行った。そのついでに車を廻して、そこからあまり遠くない所にある「処女の木」を見物した。
 その辺はマタリアと呼ばれる部落で、五千年前のヘリオポリスの殷賑などはいくら想像を働かしても実感することのできないほどに今は荒れさびれている。泥ででっち上げた低い家の飛び飛びに並んだほこりっぽい道路の片側に、牧場で見るような簡単な板を打ちつけた片折戸が締まっていて、案内者のサイドが車から下りてベルを鳴らすと、遠い奥の方からヌビア人らしい黒ん坊の子供が跣足で駈けて来て、その戸をあけた。入って行くと、奥は廃園といったような感じのする広場になって、シャリ・エル・ミサラと呼ばれ、三角州地方では最も古い庭園の一つといわれている。隅に小さい番人の小屋があり、其処から黒ん坊の小僧は飛び出して来たのだった。
 庭園のまん中ほどに一株の大きなシカモアの木が白っぽく朽ちた二股の幹を七八尺の高さに折れ残して枯れ立っている。それが謂わゆる「処女の木」で、処女マリアが赤ん坊のキリストを抱いて、ヨセフに伴われ、イスラエルの地から王ヘロデの迫害を遁れてエジプトに避難した時、しばらくその木の下で暮していたと伝えられている。幹はさながら古材のようで、皮などはなく、つるつるしていて、なかばうつろになってるが、それがシカモアだとわかるのは、その幹から太い逞ましい枝が三本斜めに突出して、それも白っぽく枯れてるが、そのうち二本の端に不思議にも生き生きした小枝が伸びて青葉を付けている。その葉を見ると、エジプトの到る所で出逢うシカモアだということが、すぐ知れる。シカモア Sycamore を『聖書』には桑樹と訳してあるが、葉だけは日本の桑に似ているけれども桑ではない。いちじくの種類で、学名は Ficus Sycamorus となっている。(イギリスでシカモアといわれるのは種類がちがい、楓に似てるように見た。)
「処女の木」のシカモアは枯れ朽ちてるのに、尖に葉が茂ってるのがおかしいと思ったら、バッジ博士の The Nile(第十二版、一九一二年)には「処女の木」が一九〇六年七月十四日に老齢のため朽ち折れたのを惜んでいる辞句があり、一九一四年の Baedeker には一本の若枝が芽を吹いたので大事に柵を繞したという記事があるので、一二年と一四年の間に此のシカモアの木は復活したものと思われる。謡曲の文句ではないが、老木も若みどりといったような感じである。『ベデカ』に拠ると、此の老木は一六七二年以後に植え替えられた何代目かの「処女の木」らしい。小枝のそこここに細いきれが結びつけてあるのを日本流に解釈して、いずれ黒ん坊の若者や娘たちが縁結びの願いごとでもする習慣がある…

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