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ラ・ベルとラ・ベート(美し姫と怪獣)
ラ・ベルとラ・ベート(うつくしひめとかいじゅう)
作品ID43125
原題LE BELLE ET LA BETE
著者ド・ヴィルヌーヴ ガブリエル=シュザンヌ・バルボ
翻訳者楠山 正雄
文字遣い新字新仮名
底本 「世界おとぎ文庫(イギリス・フランス童話篇)妖女のおくりもの」 小峰書店
1950(昭和25)年5月1日
入力者大久保ゆう
校正者秋鹿
公開 / 更新2006-03-12 / 2014-09-18
長さの目安約 20 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 むかし昔、ある所に、お金持の商人がいて、三人のむすこと三人のむすめと、つごう六人のこどもをもっていました。商人には、お金よりもこどものほうが、ずっとずっとだいじなので、こどもたちたれも、かしこくしあわせにそだつように、そればかりねがっていました。
 三人のむすめたち、たれも、きれいに生まれついてきているなかで、いちばん末の女の子は、きれいというだけではたりない、それこそ照りかがやくように美しくて、まだ三つ四つのおさな子のときから、ラ・ベル――美し姫とよばれていたのが、大きくなるにしたがい、美人ということばは、このむすめひとりのためにあるようになりました。顔かたちの美しいばかりでなく、心のすなおで善いこのむすめとはうらはらで、ふたりの姉たちは、あいにく、いじわるでねじけていて、妹の美しい美しいとほめられるのがにくらしくてなりませんでした。それに、この姉たちは、いばりやで見え坊で、世界一大金持のようにおもい上がって、ほかの商人たちのなかまを見下しながら、侯爵とか伯爵とか貴族のやしきによばれて、ぶとう会やお茶の会のなかまになることを、この上ないめいよにおもっていました。そして、妹のラ・ベルが、いつもうちにひっこんでいて、つつましくおとうさまに仕えているのを、「あの子はばかだから。」といってあざけりました。なにしろ、うちがお金持なので、むすめさんをおよめにといってくるものは、ことわりきれないほどありましたが、上の姉たちは、自分より上の身分のもののほか、まるで相手にしませんでしたし、末の妹は、まだわたしはこどもで、とうぶん、なくなった母の代りに、父の世話をしてあげたいとおもいますからといってことわりました。
 ところで、人間の身の上はいつどうかわるかわかりません。さしも大金持だった商人が、ふとしたつまづきで、いっぺんに財産をなくしてしまい、のこったものは、いなかのささやかな住居ばかりということになりました。そこで商人は、三人の男の子に言いふくめて、てんでん、ひろい世間へ出て、その日その日のパンをかせがせることにしましたが、女の子たちのうち、ふたりの姉は、自分たちは町におおぜい、ちやほやしてくれる男のお友だちがあって、いくらびんぼうになっても、きっとそのひとたちは見捨てずにいてくれると、いばっていました。けれど、いざとなると、たれも知らん顔をして、よりつこうともしないどころか、これまでお金のあるのを鼻にかけて、こうまんにふるまっていたものが、そんなざまになって、いいきみだといってわらいました。それとはちがって、末のむすめのことは、たれも気のどくがって、びた一文もたないのはしょうちで、ぜひおよめに来てもらいたいという紳士は、あとからあとからとたえませんでしたが、むすめは、こうなると、よけいおとうさまのそばをはなれることはできないとおもって、どんな申込もことわりました。

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