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愛の問題(夫婦愛)
あいのもんだい(ふうふあい)
作品ID43128
副題――生命の法に随う――
――せいめいのほうにしたがう――
著者倉田 百三
文字遣い新字新仮名
底本 「青春をいかに生きるか」 角川文庫、角川書店
1953(昭和28)年9月30日、1967(昭和42)年6月30日43版
入力者ゆうき
校正者noriko saito
公開 / 更新2005-01-25 / 2014-09-18
長さの目安約 10 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 一人の男と一人の女とが夫婦になるということは、人間という、文化があり、精神があり、その上に霊を持った生きものの一つの習わしであるから、それは二つの方面から見ねばならぬのではあるまいか。
 すなわち一つは宇宙の生命の法則の見地から見て、かりのきめであって、固執すると無理があるということだ。も一つはたとい多少の無理を含んでいても、進化してきた人間の理想として、男女の結合の精神的、霊的指標として打ち立て、築き守って、行くべきものであるということである。
 生命の法則についての英知があって、かつ現代の新生活の現実と機微とを知っている男女はこの二つの見方を一つの生活に融かして、夫婦道というものを考えばならぬ。
 人間が、文化と、精神と霊とを持っているのでなかったら夫婦道というものは初めから無理で意味をなさないのだから、夫婦になる以上は性に関する、文化的、精神的、霊的要求を充分に夫婦道に盛るべきだ。そういう愛を互いに期待すべきだ。だからこのごろときどき耳にする恋愛結婚より、見合結婚の方がましだなどと考えずに結婚に入る門はやはりどこまでも恋愛でなくてはならぬ。純な、一すじな、強い恋愛でなくてはならぬ。恋愛から入らずに結婚して、夫婦道の理想を立てようなどというのは、霊のない人間に初めて考えられることであって、たとい円満にそいとげても、結局常識的、事務的な結合にすぎぬ。こういうことはやはり正面からの道が一番いいので、ほかから見れば、円満幸福に見えても、一つ一つの生活のはしばしまで、愛の行き渡り方、心のとけ合い方が違うのだ。
 それに夫婦生活には必ず、倦怠期があるし、境遇上に不幸が襲うし、相手にそれほどでもなかったという期待はずれが生じるものだ。そういうとき、本当に愛し合ったいろいろの思い出は愛を暖め直すし、またあきらめがつく。あれだけ愛したのだものをと思わせる。そうしているうちには、もともと人生と人間とを知ること浅く、無理な、過大な要求を相手にしているための不満なのだから、相方が思い直して、もっと無理のない、現実に根のある、しんみりした、健実な夫婦生活を立てていこうとするようになる。
今さらに何かなげかん打ちなびき心はきみによりにしものを
 これは万葉にある歌だがいい歌だと思う。
 こんな気持は恋愛から入った夫婦でなくては生じないだろう。
 性交は夫婦でなくてもできるが、子どもを育てるということは人間のように愛が進化し、また子どもが一人前になるのに世話のやける境涯では、夫婦生活でなくては不都合だ。それが夫婦生活を固定させた大きな条件なのだから、したがって、夫婦愛は子どもを中心として築かれ、まじめな課題を与えられる。恋愛の陶酔から入って、それからさめて、甘い世界から、親としてのまじめな養育、教育のつとめに移って行く。スイートホームというけれども、恋愛の甘さではなく、こうなって…

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