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人外魔境
じんがいまきょう
副題10 地軸二万哩
10 カラ・ジルナガン
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「人外魔境」 角川ホラー文庫、角川書店
1995(平成7)年1月10日
入力者笠原正純
校正者鈴木厚司
公開 / 更新2003-04-25 / 2014-09-17
長さの目安約 42 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

   魔境からの使者

 ――折竹氏、中央亜細亜へゆく。世界の屋根、パミール高原中の大魔境「大地軸孔」をさぐるため、近日ロンドンを出発、英印連絡空路により、アフガニスタンのグワダールへ赴く予定。
 とこんな記事が、ロンドン中の新聞を賑わしたのが、十日ほどまえのこと。英帝皇后ご同列の米大州ご訪問や、アラビアオーマン国の王子ご新婚などに併せ……ともあれ、スペースを食った大物記事の一つ。それが、十日ばかり後に大難関に逢着し、あれよあれよという間に折竹参加という、大報道価値がかき消えてしまうとは……
 というのは、次のような声明書、「大地軸孔」行きを断念するという意外な折竹の発表が、朝刊締切後の深更の各社をおどろかした。
 ――ドイツルフト・ハンザ航空会社の主唱になる「大地軸孔」探検に小生は不参加の意を表明す。なお、同探検隊が小生の攻撃計画を採用するも、それにはなんの異議なきものなり。鍵十字旗の、魔境に翻えるを祈りて。
 これには、各社ともアッと目を剥いたのである。なんてこった、じぶんが計画をたて隊長にまでなりながら、まさに出発という間際にスイと身を退くなんて……これまで度胸六分の戦車的突進を誇りとした彼を思えば、ますます分らなくなってくる。きっと、これには事情があるのだろう。ただ心境の変化、電撃的翻意くらいで、そう易々と片付けられるものではあるまい。と、事の真相を測りかねた各社の猛者連が、翌朝折竹の宿へ目白押しに押しかけてきた。
 彼が泊まっている「マルバーン・ハウス」というのは、ロンドンの西郊チェルシー区にある。この区はロンドンの芸術家街といわれ、都心を遠くはなれた川沿散歩道のしずけさ。が、いま部屋のなかは喧囂たる有様だ。「タイムス」「デリー・テレグラフ」をはじめ各国の特派員。なかには、前作、「第五類人猿」のアマゾン奥地探検のとき関係のあった、「世界新報」というペルー新聞までがいる始末。
 心境の御変化はどういう理由で……あなた個人の、身辺的事情?……それとも、土地柄政治的原因で……と包囲攻撃のなかで静かに莨煙をたて、折竹は憮然とガウンの紐をいじっている。やがて、鎮まるのを待って、ニッと笑い、
「別に、どうこういうような派手派手しい理由はない。風……。僕の翻意の原因は、風にある」
「へえ。風がね」
 とロイド眼鏡をひからせてまっ先に乗り出してきたのが、「スター紙」の山岳通マクブリッジ君。
「つまり、仰言る意味の風は、季節風でしょうね。しかしそれはとうに計画のなかへ織り込みずみじゃありませんか。季節風の影響のない五、六月中に、探検を完了するというのが既定の計画だとしたら風の影響などは何もないじゃないですか。むしろ、驚異の征服をなし遂げた、引き上げ時にですね、季節風の猛雨くらいあるほうが、劇的でいいですよ。征服者折竹の風貌いよいよ颯爽となり……映画班も悦ぶし、われわ…

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