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「二銭銅貨」を読む
「にせんどうか」をよむ
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「日本探偵小説全集2 江戸川乱歩集」 創元推理文庫、東京創元社
1984(昭和59)年10月26日
初出「新青年」1923(大正12)年4月号
入力者小酒井博士
校正者大野晋
公開 / 更新2004-11-19 / 2014-09-18
長さの目安約 5 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

「二銭銅貨」の原稿を一読して一唱三嘆――いや、誰も傍にはいなかったから一唱一嘆だったが――早速、「近頃にない面白い探偵小説でした」と森下さんに書き送ったら「それに就ての感想」を書かないかとの、きつい言い付け。文芸批評と自分の法名ばかりは、臍の緒切ってからまだ書いたことが御座りませぬからと一応御断りしようと思ったところ、オルチー夫人のサー・パーシー・ブレークネーではないが、持って生れた悪戯気分がむらむらと頭を持ち上げて、大胆にもこうして御茶を濁すことになったのである。誠に仏国革命政府の眼をくらまして、貴族を盗み出す以上に冒険な仕事であるがせめて地下鉄・サムの「新弟子」位の腕にあやかりたいと思ってはみても、いや、それはやっぱり強欲というもの。
 三度の飯を四度食べても、毎日一度は探偵小説を読まねば気が済まぬという自分に、「二銭銅貨」のような優れた作を見せて下さった森下さんは、その功徳だけでも、兜率天に生れたまうこと疑なし。碌に読めもしない横文字を辿って、大分興味を殺がれながら、尚おかつ外国の探偵小説をあさっていたのも、実は日本にこれという探偵小説がなかったからである。ところが「二銭銅貨」を読むに至って自分は驚いた。「二銭銅貨」の内容にまんまと一杯喰わされて多大の愉快を感じたと同じ程度に日本にも外国の知名の作家の塁を摩すべき探偵小説家のあることに、自分は限りない喜びを感じたのである。「一班を以て全豹を知る」ということは総ての場合に通用すべき言ではないが、こうして見ると日本にも隠れたる立派な作家があることがわかった。否、まだ外にもあるに違いないということが推定された。それ故、「新青年」の編輯者が、かかる隠れたる作家を明るみへ出そうと企てられたことに自分は満腔の賛意を表するのである。
 芸術の鑑賞と批評――などと鹿爪らしく言うのも烏滸がましいが、優れたる探偵小説なるものは誰が読んでも面白いものでなくてはならない。そして探偵小説は描写の技巧の優れたるよりも筋の優れたものを上乗とすべきであろうと自分は思う。それ故覚束ない外国語で読んでも、比較的完全にその趣向を味うことが出来るのである。劇とか詩とかは、言葉そのものから、しっくり味ってかからねばならぬのであるが探偵小説には、たとい、今後馬場氏が適切に説破せられたように、人情や風景の描写が多く入って来ても、興味の焦点となるものはやはりその筋書でなくてはならないと思う。この点があればこそこうして自分ごときの素人が、探偵小説に嘴を入れ得る訳である。
 探偵小説の面白味は言う迄もなく、謎や秘密がだんだん解けて行くことと、事件が意表外な結末を来す点にある。而もその事件の解決とか、発展とかが、必ず自然的でなくてはならない。換言すれば偶然的、超自然的又は人工的であることを許さない。其処に作者の大なる技巧を必要とする。即ちジニアスを要するの…

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