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明治美人伝
めいじびじんでん
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「新編 近代美人伝 (上)」 岩波文庫、岩波書店
1985(昭和60)年11月18日
初出「解放 明治文化の研究特別号」1921(大正10)年10月
入力者門田裕志
校正者川山隆
公開 / 更新2007-11-10 / 2014-09-21
長さの目安約 36 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

       一

 空の麗しさ、地の美しさ、万象の妙なる中に、あまりにいみじき人間美は永遠を誓えぬだけに、脆き命に激しき情熱の魂をこめて、たとえしもない刹那の美を感じさせる。
 美は一切の道徳規矩を超越して、ひとり誇らかに生きる力を許されている。古来美女たちのその実際生活が、当時の人々からいかに罪され、蔑すまれ、下しめられたとしても、その事実は、すこしも彼女たちの個性的価値を抹殺する事は出来なかった。かえって伝説化された彼女らの面影は、永劫にわたって人間生活に夢と詩とを寄与している。
 小さき夢想家であり、美の探求者であるわたしは、古今の美女のおもばせを慕ってもろもろの書史から、語草から、途上の邂逅からまで、かずかずの女人をさがしいだし、その女たちの生涯の片影を記しとどめ、折にふれて世の人に、紹介することを忘れなかった。美しき彼女たちの(小伝)は幾つかの巻となって世の中に読まれている。
 そしてわたしの美女に対する細かしい観賞、きりきざんだ小論はそうした書にしるしておいた。ここには総論的な観方で現代女性を生んだ母の「明治美人」を記して見よう。

 それに先だって、わたしは此処にすこしばかり、現代女性の美の特質を幾分書いて見なければならない。それはあまりに急激に、世の中の美人観が変ったからである。古来、各時期に、特殊な美人型があるのはいうまでもないが、「現代は驚異である」とある人がいったように、美人に対してもまたそういうことがいえる。
 現代では度外れということや、突飛ということが辞典から取消されて、どんなこともあたり前のこととなってしまった。実に「驚異」横行の時代であり、爆発の時代である。各自の心のうちには、空さえ飛び得るという自信をもちもする。まして最近、檻を蹴破り、桎梏をかなぐりすてた女性は、当然ある昂ぶりを胸に抱く、そこで古い意味の(調和)古い意味の(諧音)それらの一切は考えなくともよいとされ、現代の女性は(不調和)のうちに調和を示し、音楽を夾雑音のうちに聴くことを得意とする。女性の胸に燃えつつある自由思想は、各階級を通じて(化粧)(服装)(装身)という方面の伝統を蹴り去り、外形的に(破壊)と(解放)とを宣言した。調わない複雑、出来そくなった変化、メチャメチャな混乱――いかにも時代にふさわしい異色を示している。
 時代精神の中枢は自由である。束縛は敵であり跳躍は味方である。各自の気分によって女性は、おつくりをしだした。美の形式はあらゆる種類のものが認識される。
 黒狐の毛皮の、剥製標本のような獣の顔が紋服の上にあっても、その不調和を何人も怪しまない。十年前、メエテルリンク夫人の豹の外套は、仏蘭西においても、亜米利加においても珍重されたといわれるが、現代の日本においては、気分的想像の上ですでにそんなものをば通り越してしまっている。
 その奔放な心持ちは…

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