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二日物語
ふつかものがたり
著者
文字遣い新字旧仮名
底本 「日本現代文學全集 6 幸田露伴集」 講談社
1963(昭和38)年1月19日
初出「國會」1892(明治25)年5月、「文藝倶樂部」1901(明治34)年1月
入力者kompass
校正者小林繁雄、門田裕志
公開 / 更新2008-04-02 / 2014-09-21
長さの目安約 39 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

     此一日

      其一

 観見世間是滅法、欲求無尽涅槃処、怨親已作平等心、世間不行慾等事、随依山林及樹下、或復塚間露地居、捨於一切諸有為、諦観真如乞食活、南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏。実に往時はおろかなりけり。つく/″\静かに思惟すれば、我憲清と呼ばれし頃は、力を文武の道に労らし命を寵辱の岐に懸け、密かに自ら我をば負み、老病死苦の免さぬ身をもて貪瞋痴毒の業をつくり、私邸に起臥しては朝暮衣食の獄に繋がれ、禁庭に出入しては年月名利の坑に墜ち、小川の水の流るゝ如くに妄想の漣波絶ゆる間なく、枯野の萱の燃ゆらむやうに煩悩の火[#挿絵]時あつて閃めき、意馬は常に六塵の境に馳せて心猿動もすれば十悪の枝に移らんとし、危くもまた浅ましく、昨日見し人今日は亡き世を夢と見る/\果敢なくも猶驚かで、鶯の霞にむせぶ明ぼのの声は大乗妙典の御名を呼べども、羝羊の暗昧無智の耳うとくて無明の眠りを破りもせず、吹きわたる嵐の音は松にありて、空をさまよふ浮雲に磨かれ出づる秋の夜の月の光をあはれ宿す、荒野の裾のむら薄の露の白珠あへなくも、末葉元葉を分けて行く風に砕けてはら/\と散るは真に即無常、金口説偈の姿なれども、※※[#「目+(黒の旧字/土)」、117-上-19][#「塞」の「土」に代えて「目」、117-上-19]として視る無き瞎驢の何を悟らむ由もなく、いたづらに御祓済してとり流す幣もろともに夏を送り、窓おとづるゝ初時雨に冬を迎へて世を経しが、物に定まれる性なし、人いづくんぞ常に悪からむ、縁に遇へば則ち庸愚も大道を庶幾し、教に順ずるときんば凡夫も賢聖に斉しからむことを思ふと、高野大師の宣ひしも嬉しや。一歳法勝寺御幸の節、郎等一人六条の判官が手のものに搦められしを、厭離の牙種、欣求の胞葉として、大治二年の十月十一日拙き和歌の御感に預り、忝なくも勅禄には朝日丸の御佩刀をたまはり、女院の御方よりは十五重りたる紅の御衣を賜はり、身に余りある面目を施せしも、畏くはあれど心それらに留まらず、ひたすら世路を出でゝ菩提に入り敷華成果の暁を望まむと、遂に其月十五夜の、玉兎も仏国西方に傾く頃を南無仏南無仏、恩愛永離の時こそ来つれと、髻斬つて持仏堂に投げこみ、露憎からぬ妻をも捨て、いとをしみたる幼きものをも歯を切つて振り捨てつ、弦を離れし箭の如く嵯峨の奥へと走りつき、ありしに代へて心安き一鉢三衣の身となりし以来、花を採り水を掬むでは聊か大恩教主の御前に一念の至誠を供じ、案を払ひ香を拈つては謹んで無量義経の其中に両眼の熱光を注ぎ、兀坐寂寞たる或夜は、灯火のかゝげ力も無くなりて熄まる光りを待つ我身と観じ、徐歩逍遥せる或時は、蜘蛛の糸につらぬく露の珠を懸けて飾れる人の世と悟りて、ます/\勤行怠らず、三懺の涙に六度の船を浮めて、五力の帆を揚げ二障の波を凌がむとし、山林に身を苦しめ雲水に魂をあくがれさせては、墨…

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