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足の裏
あしのうら
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「怪奇探偵小説名作選7 蘭郁二郎集 魔像」 ちくま文庫、筑摩書房
2003(平成15)年6月10日
初出「探偵文学」探偵文学社、1935(昭和10)年3月号
入力者門田裕志
校正者川山隆
公開 / 更新2006-12-16 / 2014-09-18
長さの目安約 12 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

      一

 さて、私がいまお話ししようというお話の主人公は、景岡秀三郎――という景岡浴場の主人なのですが、その人の色々変ったお話と、それに関連して探偵小説的な一つのトリックといったようなものを御紹介しようと思うのです。
 浴場の主人――などというと如何にも年輩の、シッカリした男を連想しますけど、景岡は私立大学を出たばかりの、まだ三十には二三年間のある青年でした。大学を出たばかりの青年がお湯屋の主人なんて――、誠に不釣合な話です。だが彼の奇癖が、こんな商売をやらせたのです。
 一体、景岡秀三郎という青年は……チョット傍道になりますけれど……少年の時から、極く内気な性質でした。そうした少年にありがちな傾向として、彼も矢張り、小学校という社会に投込まれた時に、どんなに驚ろいた事でしょう。元気よく馳け廻る大勢の友人を、寧ろ、驚異の眼で見とれ乍ら、校舎の蔭にポツンと独り、影法師のような秀三郎でした。――そのくせ、夢みるような瞳は、飽くなき巨大な幻想を疑視めていたのです。
 この風変りな少年、景岡秀三郎の、最も恐れたのは、時々行われる体格検査でした。大きな講堂の中で、ピチピチした裸体の群像の中に青白い弱々しい体を曝すという事は、消入るように苦しかったのです。
(痩っぽちだなァ……)
 侮蔑にみちた言葉が、裸になって、はしゃぎ切った少年達の、何んでもない会話からさえ、浮び出して来るのでした。
 その上、景岡秀三郎は、少年としては珍しく、毛深かかったのです。腕や脚には、もう生え際の金色な毳毛が、霞のように、生えていたのです。
 秀三郎は、友達の浅黒い、艶々した肌を見る度に、自分の毛深かさに対して、子供心にも、激しい嫌悪を感ずるのでした。
『おや! すごい毛だね……』
 体格検査の時など、そんなことをいい乍ら、友達が、珍らしそうに近寄って来ると、秀三郎は、ギクンと咽喉につかえた心臓を、一生懸命に、肩をすぼめて押え乍ら、もう眼は泪ぐんで仕舞うのでした。
 こんな自然の悪戯は、秀三郎を、尚内気にして仕舞うと同時に、露出嫌悪症――裸体嫌悪症――という変窟沼の中に投げ落し、そして、それは年と共に、いよいよ激しくなって、自分自身の体でありながら毛むくじゃらな腕や胸を見ると、ゾッと虫酸が走るのを、どうすることも出来ませんでした。
 ――そのくせ、というより、寧ろその反動として、白い滑らかな、朝霧を含んだ絹のような、はり切った皮膚を見る度に、彼は頬を摺りつけ、舐めてみたり、或は、そっと噛んでみたいような、激しい憧れを感ずるのです。
 煙のように、淡く飛び去った幼ない思い出の中に、今でも網膜に焼付けられた、一つの絵があります。――それは小学校の校庭でした。
 女生徒の体操の時間で、肋木につかまった生徒達が、教師の号令で、跼んだり起きたりしています。二階の窓ぎわにいた景岡秀三郎が、フト…

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