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英雄論
えいゆうろん
作品ID43448
副題明治廿三年十一月十日静岡劇塲若竹座に於て演説草稿
めいじにじゅうさんねんじゅういちがつとうかしずおかげきじょうわかたけざにおいてえんぜつそうこう
著者山路 愛山
文字遣い新字旧仮名
底本 「現代日本文學大系 6 北村透谷・山路愛山集」 筑摩書房
1974(昭和44)年6月5日
初出「女学雑誌」1891(明治24)年1月
入力者kamille
校正者鈴木厚司
公開 / 更新2006-08-13 / 2014-09-18
長さの目安約 11 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 金色人種に、破天荒なる国会は、三百議員を以て、其開会を祝さんとて、今や仕度最中なり、私権を確定し、栄誉、財産、自由に向て担保を与ふべき民法は、漸く完全に歩みつゝあり、交通の女王たる鉄道は何れの津々浦々にも、幾千の旅客を負ふて、殆んど昼夜を休めざる也、日本の文明は真個に世界を驚殺せりと云べし、三十年前、亜米利加のペルリが、数発の砲声を以て、江戸城中を混雑せしめたる当時と今日とを並べ見るの利益を有する人々には我文明の勢、猶飛瀑千丈、直下して障礙なきに似たる者あらんか、東西古今文明の急進勇歩、我国の如きもの何処に在る。
 嘗て加藤博士が国会猶早しと呼びたるの時代ありき、嘗て文部省は天下に令して四書五経を村庠市学の間に復活せしめんとせし時代もありき、当代の大才子たる桜痴福地先生が王道論とかいへる漢人にても書きそふなる論文をものせられし時代もありき、ピータア、ゼ、ヘルミット然たる佐田介石師が「ランプ」亡国論や天動説を著して得々乎として我道将さに行はれんとすと唱はれたる時代もありき、丸山作楽君が君主専制の東洋風に随喜の涙を流されし時代もありき、如此に我日本の学者、老人、慷慨家、政治家、宗教家達は、我文明の余りに疾歩するを憂へて、幾たびか之を障へんとし、之が堤防を築き、之が柵門を建られつれど、進歩の勢力は之に激して更に勢を増すのみにして、反動の盛なると共に正動も亦盛にして、今や宛然として欧羅巴ナイズされんとせり、勿論輓今稍我人心が少しく内に向ひ、国粋保存の説が歓迎さるゝの現象は見ゆれど、是唯我人民が小児然たる摸倣時代より進んで批評的の時代に到着したるの吉兆として見るべきものにして、余は之れが為めに我が文明の歩を止むべしとは思はざるなり。論じて此に到れば、吾人は今文明の急流中に棹して、両岸の江山、須臾に面目を改むるが如きを覚ふ、過去の事は歴史となりて、巻を捲かれたり、往事は之れを追論するも益なし、未来の吉凶禍福こそ半は大勢に在り、半は吾人の手に存するなれ、我文明を如何にすべき、是吾人の今日に於て解釈すべき問題に非ずや、呉越の人たとひ天涯相隔つるとも、一舟の中に乗ぜば安全なる彼岸に達せしむるまでは、共に力を此に致さざるべからず、来れ老人よ、青年よ、仏教家よ、「クリスチァン」よ其相互の感情に於ては冷かなるも、其宗敵たる位置に於ては相争ふも、此一事に於ては兄弟であれ、手を携ふるものであれ。
 吾人は今文明急流の中に舟を棹しつゝあり、只順風に帆を挙て、自然に其運行に任すべきか、抑も預じめ向て進むべき標的を一定し置くべきか、若し此儘に盲進するも、前程に於て、渦流、暗礁、危岸、険崖なくんば可なり、柔櫓声中、夢を載せて、淀川を下る旅客を学ぶも差支なしと雖も、若夫れ我文明の中に疾を存し、光れる中に腐敗を蔵するを見ば、焉ぞ大声叱呼して柁師を警醒せざるを得んや。
 夫れ物質的の文明は唯物質的…

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