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一寸法師
いっすんぼうし
作品ID43457
著者楠山 正雄
文字遣い新字新仮名
底本 「日本の古典童話」 講談社学術文庫、講談社
1983(昭和58)年6月10日
入力者鈴木厚司
校正者林幸雄
公開 / 更新2006-09-24 / 2014-09-18
長さの目安約 12 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

     一

 むかし、摂津国の難波という所に、夫婦の者が住んでおりました。子供が一人も無いものですから、住吉の明神さまに、おまいりをしては、
「どうぞ子供を一人おさずけ下さいまし。それは指ほどの小さな子でもよろしゅうございますから。」
 と一生懸命にお願い申しました。
 すると間もなく、お上さんは身持ちになりました。
「わたしどものお願いがかなったのだ。」
 と夫婦はよろこんで、子供の生まれる日を、今日か明日かと待ちかまえていました。
 やがてお上さんは小さな男の赤ちゃんを生みました。ところがそれがまた小さいといって、ほんとうに指ほどの大きさしかありませんでした。
「指ほどの大きさの子供でも、と申し上げたら、ほんとうに指だけの子供を明神さまが下さった。」
 と夫婦は笑いながら、この子供をだいじにして育てました。ところがこの子は、いつまでたってもやはり指だけより大きくはなりませんでした。夫婦もあきらめて、その子に一寸法師と名前をつけました。一寸法師は五つになっても、やはり背がのびません。七つになっても、同じことでした。十を越しても、やはり一寸法師でした。一寸法師が往来を歩いていると、近所の子供たちが集まってきて、
「やあ、ちびが歩いている。」
「ふみ殺されるなよ。」
「つまんでかみつぶしてやろうか。」
「ちびやい。ちびやい。」
 と口々にいって、からかいました。一寸法師はだまって、にこにこしていました。

     二

 一寸法師は十六になりました。ある日一寸法師は、おとうさんとおかあさんの前へ出て、
「どうかわたくしにお暇を下さい。」
 といいました。おとうさんはびっくりして、
「なぜそんなことをいうのだ。」
 と聞きました。一寸法師はとくいらしい顔をして、
「これから京都へ上ろうと思います。」
 といいました。
「京都へ上ってどうするつもりだ。」
「京都は天子さまのいらっしゃる日本一の都ですし、おもしろいしごとがたくさんあります。わたくしはそこへ行って、運だめしをしてみようと思います。」
 そう聞くとおとうさんはうなずいて、
「よしよし、それなら行っておいで。」
 と許して下さいました。
 一寸法師は大へんよろこんで、さっそく旅の支度にかかりました。まずおかあさんにぬい針を一本頂いて、麦わらで柄とさやをこしらえて、刀にして腰にさしました。それから新しいおわんのお舟に、新しいおはしのかいを添えて、住吉の浜から舟出をしました。おとうさんとおかあさんは浜べまで見送りに立って下さいました。
「おとうさん、おかあさん、では行ってまいります。」
 と一寸法師がいって、舟をこぎ出しますと、おとうさんとおかあさんは、
「どうか達者で、出世をしておくれ。」
 といいました。
「ええ、きっと出世をいたします。」
 と、一寸法師はこたえました。
 おわんの舟は毎日少しずつ…

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