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ヴィタミン研究の回顧
ヴィタミンけんきゅうのかいこ
作品ID43529
著者鈴木 梅太郎
文字遣い旧字旧仮名
底本 「研究の回顧」 輝文堂書房
1943(昭和18)年2月25日
初出「科學知識」科學知識普及會、1931(昭和6)年2月1日発行
入力者小林徹
校正者大野晋
公開 / 更新2005-01-11 / 2014-09-18
長さの目安約 19 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 顧みれば、蛋白質、脂肪、炭水化合物、これにカルシウム、燐、鐵、沃度等の無機成分を加へた榮養素を以て動物は完全に發育するものと考へられてゐた時代は相當長かつた。しかも、この點に疑問を[#挿絵]むものは一人もなかつたのである。
 私は以上の四成分のみでは動物は生命を保ち得ないことを證明し、微量にして生命を支配する何物かの存在を提唱し、その神祕の成分の一つが米糠中に含有さるゝことを見出し、これを抽出分析して「オリザニン」(ヴィタミンB)と命名し、明治四十三年の冬、我が學界に發表したのであるが、當時は殆んど顧みられず、越えて大正七、八年頃、歐米の學界に勃興したヴィタミン研究熱は我國にも反響して、我國の學者達をも漸く目醒まさせ、今日では誰一人ヴィタミンを除外して榮養を論ずるものもなく、また、ヴィタミンを知らずして生命の科學を語るものもない。想へば、全く隔世の感がある。
 そのヴィタミンの研究は、明治三十九年に私が獨逸から歸つて直ぐに始めたもので、今日まで二十四五年になる。殆んど半生をこれに費した譯であるが、恐らく今後も、一生續けることだらう。この研究の動機と云へば、種々の空想もあつたが、外國に留學した時に日本人の體格の貧弱なことを痛感したのが主なものである。日本人が外國の學者と競爭して勉強しても一時は負けないが、どうしても永くは續かない。その原因はどこにあるかと、終始考へて居つた。
 當時ベルリン大學で、エミール・フヰツシャー先生が蛋白質の研究を始めて居たので、私は二年有餘、先生に師事してその仕事を手傳つた。その時初めて蛋白質の種類によつて榮養價が違ふといふことが判つた。それで日本人は米を主食としてゐるから、或は米の蛋白質が惡いのではなからうか、米の蛋白質と肉類の蛋白質とは榮養上に大なる相違があるのでなからうか、といふ疑問を抱いた。
 私が三十九年歸朝する時、フヰツシャー先生に、歸朝後どんな研究をしたらよからうかと相談したところ、先生の云はるゝには「歐洲の學者と共通の問題を捉へたところで、こちらは設備も完成し、人も澤山あつて、堂々とやつてゐるのだから、とても競爭は出來まい。それよりも東洋に於ける特殊の問題を見付けるがよからう」といふことであつた。私はそれは至極尤と考へたから、差し當り米の問題を研究することにしたのである。
 それで歸朝すると、盛岡の高等農林學校の教授に任命されたので、第一に吉村清尚君(現鹿兒島高等農林學校長)と協同して、白米、玄米、及び糠の蛋白質の性質を調べ、また糠から一種の含燐化合物(フヰチン)を抽出し、次で、糠の中には、鐵を含んだ蛋白質の存在することを見出した。

 蛋白質の榮養價を決定するには、單に分析だけでは駄目である。是非とも動物試驗を行はなければならない。私は農藝化學を修めたので、植物の肥料試驗法を知つて居つた。水耕法と稱して、純粹の水に…

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