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五所川原
ごしょがわら
著者
文字遣い新字旧仮名
底本 「太宰治全集 10」 筑摩書房
1990(平成2)年12月25日
入力者砂場清隆
校正者林幸雄
公開 / 更新2002-12-11 / 2014-09-17
長さの目安約 2 ページ(500字/頁で計算)
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本文より


 叔母が五所川原にゐるので、小さい頃よく五所川原へ遊びに行きました。旭座の舞台開きも見に行きました。小学校の三、四年生の頃だつたと思ひます。たしか友右衛門だつた筈です。梅の由兵衛に泣かされました。廻舞台を、その時、生れてはじめて見て、思はず立ち上つてしまつた程に驚きました。この旭座は、そののち間もなく火事を起し、全焼しました。その時の火焔が、金木から、はつきり見えました。映写室から発火したといふ話でした。さうして、映画見物の小学生が十人ほど焼死しました。映写の技師が罪に問はれました。過失傷害致死とかいふ罪名でした。子供にも、どういふわけだか、その技師の罪名と運命を忘れる事が出来ませんでした。旭座といふ名前が「火」の字に関係があるから焼けたのだといふ噂も聞きました。二十年も前の事です。
 七ツか、八ツの頃、五所川原の賑やかな通りを歩いて、どぶに落ちました。かなり深くて、水が顎のあたりまでありました。三尺ちかくあつたのかも知れません。夜でした。上から男の人が手を差し出してくれたのでそれにつかまりました。ひき上げられて衆人環視の中で裸にされたので、実に困りました。ちやうど古着屋のまへでしたので、その店の古着を早速着せられました。女の子の浴衣でした。帯も、緑色の兵古帯でした。ひどく恥かしく思ひました。叔母が顔色を変へて走つて来ました。
 私は叔母に可愛がられて育ちました。私は、男ツぷりが悪いので、何かと人にからかはれて、ひとりでひがんでゐましたが、叔母だけは、私を、いい男だと言つてくれました。他の人が、私の器量の悪口を言ふと、叔母は、本気に怒りました。みんな遠い思ひ出になりました。



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