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闇汁図解
やみじるずかい
著者
文字遣い旧字旧仮名
底本 「ほとゝきす 第三卷第二號」 ほとゝきす發行所
1899(明治32)年11月10日
入力者京都大学電子テクスト研究会入力班
校正者京都大学電子テクスト研究会校正班
公開 / 更新2004-11-12 / 2014-09-18
長さの目安約 3 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

[#挿絵]

一、時は明治卅二年十月二十一日午後四時過、處は保等登藝須發行所、人は初め七人、後十人半、半はマー坊なり。
一、闇汁の催しに群議一決して、客も主も各物買ひに出づ。取り殘されたる我ひとり横に長くなりて淋しげに人々の歸を待つ。
一、おくればせに來られし鳴雪翁、持寄りと聞いて、[#挿絵]々に出で行きたまふ。出がけに「下駄の齒が出て來ても善いのですか」と諧謔一番。
一、一人歸り二人歸り、直に臺所に入りて、自ら洗ひ自ら切る。時にクス/\と忍び笑ふ聲、忽ちハヽヽヽヽとどよみ笑ふ聲。
一、準備出來る迄に一會催すべしとの議出づ。座上柿あり、柿を以て題とす。鳴雪翁曰く十句の時は屹度句が失せますと。果して然り。
一、飄亭、青々後れて到る。物無く句無し。
一、一個の大鍋は座敷の中央に据ゑられ、鍋を圍んで坐する人九人、伏す人一人、いづれも眼を圓くし、鼻息を荒くして鍋の中を睥睨す。鍋の中から仁木彈正でもせり上りさうな見え[#「え」は「江」のくずし字]なり。ぬば玉の闇汁會はいよ/\幕あきとなりぬ。
一、鳴雪翁曰く、飯を喰ふて來て殘念しましたと。先づ椀を取つてなみ/\と盛る。それより右[#挿絵]りに順を追ふて各盛る、廻つて未だ半に至らず鳴雪翁既に二杯目を盛る。「實にうまいです」。
一、盛るに從つて杓子にかゝる者、青物類はいふに及ばず、豚あり、魚あり、餅あり、竹輪あり、海の物、山の物、何が何といふ事を知らず。只かゝらぬは一寸八分の觀音樣あるのみ。
一、鍋の中を杓子にてかきまぜながら「ヤー/\[#挿絵]餅がかゝつたぞ、誰だ/\、大福を入れたのは」と碧梧桐※[#「口+斗」、20-6]ぶ。皆々笑ふ。固より入れた者の外に入れた者を知らず。
一、鳴雪翁曰く、うまい。碧梧桐曰く、うまい。四方太曰く、うまい。繞石曰く、うまい。我曰く、うまい。虚子曰く、うまい。露月獨り言はず、立どころに三椀を盡す。
一、マー坊出沒常無し、こゝに隱れ彼處に現る。或は飯櫃の邊に彷徨し、或は碧梧桐の膝に上る。やがて向ひ側にある父の顏を見るや其側こひしく、碧梧桐の背を通り拔け牛伴のうしろより進まんとし、忽ち鳴雪翁の髯に逢著して泣き/\走り返る。鳴雪翁直ちに髯を掩ふて曰く、わるかつた/\。
一、下戸も喰ひ、上戸も喰ひ、すこやかなる者も喰ひ、病める者も喰ひ、飯喰ふた者も喰ひ、飯喰はぬ者も喰ふ。喰ひ/\て鍋の底現るゝ時、第二の鍋は來りぬ。衆皆腹を撫でゝ未だ手を出さゞるに、露月默々として既に四椀目を盛りつゝあり。
一、初は牛飮馬食の勢あり。中頃は牛を飮み馬を食ふの慨あり。第二の鍋未だ半を盡さゞるに、胃滿ち神疲れ、漸く牛に飮まれ馬に食はれんずるの有樣を示しぬ。我は柿腹を抱えて衆に先だつて歸る。
一、圖中の名は各人の位置を示し、名の下には各の持寄り品を示す。但し後日調べたる者と知るべし。
一、名の上に記したる句は各人の作なり。

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