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踊る地平線
おどるちへいせん
副題13 附記
13 ふき
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「踊る地平線(下)」 岩波文庫、岩波書店
1999(平成11)年11月16日
入力者tatsuki
校正者米田進
公開 / 更新2003-01-26 / 2014-09-17
長さの目安約 2 ページ(500字/頁で計算)
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本文より




 旅から帰って、はじめて郷国の真価値がその額面通りに買い得るというものだ。今の僕がそれである。もう、実を言うと原稿なんかどうでもいいんで、ただやたらに日本の着物を着て、たたみに寝ころんで、好きな日本の食物を並べておいて、片っ端から食べていたいだけだ。下素だが、真情だから仕方がない。が、この二、三日、半夜孤座して、持ち帰った荷物の整理をしている。すると、実に下らない色んなものが出て来るんだが、それが、僕の嗅覚へぷうんと「あ・ち・ら」のにおいを送って、どうかすると、倫敦の雪、巴里の雨なんかと独りで遊子ぶったりすることもないではない。僕にとっては、洋服のしみ一つにも、忘れられない思い出が蔵されているかも知れないのだ。
 とにかく、一年にわたる「新世界巡礼」は、ここに諸君の御後援によってENDを全うするを得た。帰来僕は、一そう印象の沈澱するを待って、亜米利加風に言えば「古い町に鼠を起し」てやろうと待ち構えてるだけだ。
 一年の間あちこち僕達について来て下すった読者諸君に、この機会に厚くお礼を申し上げたい。そして特に、終始一貫、有形無形に多大の援助を賜わった中央公論社長島中雄作氏に、僕は心からなる感謝と握手の手を差し伸べる。
 僕の知人に偉大な文化人がある。彼は、夕刻帰宅すると玄関へ出迎える細君へ向って大喝一声するのだ。「NOW!」と。
 けだしこのNOWは「只今!」の意であろう。
 で、新帰朝者の僕たるもの、一つ英語で諸君に御挨拶しなければなるまい。
 そこで、大きな声で、
『NOW!』

新緑の鎌倉にて
譲次



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