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黄金の腕環
おうごんのうでわ
作品ID43669
副題流星奇談
りゅうせいきだん
著者押川 春浪
文字遣い新字新仮名
底本 「少年小説大系 第2巻 押川春浪集」 三一書房
1987(昭和62)年10月31日
初出「少年世界」1907(明治40)年1月
入力者田中哲郎
校正者noriko saito
公開 / 更新2005-08-31 / 2014-09-18
長さの目安約 9 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

  一 伯爵の別荘

 流星の飛ぶのを見るのは、余り気味の好いものでは無い、シーンとした真夜中頃、青い光がスーと天空から落ちて来る有様は、恰も人魂でも飛んで来たよう、それが眼に入った瞬間は、誰でもハッと思い、流星の落ちたと覚しき淋しき場所へは、余程の勇士でも、何うも恐ろしくて行き兼ねると云う事だ。
 然るにこの流星に関し、花の様に美しい一人の少女が、世にも面白い手柄を立てた話がある。
 処は英国の或る海岸に、一軒の立派な家がある、之れは老貴族松浪伯爵の別荘で、伯爵は極く愉快な人物、それに三人の娘があって、いずれも絶世の美人と評判が高い。
 頃は十二月三十一日の夜、明日はお正月と云う前晩だが、何不自由なき貴族の事とて、年の暮にテンテコ舞する様な事は無い、一家は数日以前から此別荘に来て、今宵も三人の娘は先程より、ストーブの熾んに燃える父伯爵の居間に集り、いろいろ面白い談話に耽って居る、その面白い談話と云うのは、好奇な娘達が頻りに聴きたがる、妖怪談や幽霊物語の類で、談話上手の伯爵が、手を振り声を潜め眼を円くして、古城で変な足音の聴えた事や、深林に怪火の現われた事など、それから夫れへと巧に語るので、娘達は恐ければ恐い程面白く、だんだん夜の更けるのも知らずに居った。
 すると此時忽ち室の扉がスーと明いて、入って来たのは此家の老家扶で、恭しく伯爵の前に頭を下げ、「殿様に申上げます唯今之れなる品物が、倫敦の玉村侯爵家より到着致して御座います」と、一個の綺麗な小箱を卓子の上に戴せて立去った。
 玉村侯爵とは松浪伯爵の兄君で、三人の娘には伯父君[#ルビの「おじぎみ」は底本では「ぎみ」]に当って居る、余程面白い人で、時々いろいろ好奇な事をする。
 伯爵は侯爵の送って来た箱を開けて見て、
「マア、非常に綺麗な腕環が入って居る」と、夜光珠や真珠の鏤めてある、一個の光輝燦爛たる黄金の腕環を取出した。
 一番年長の娘は、直ぐに夫れを父伯爵の手から借りて見て、
「まあ何んと云う綺麗な腕環でしょう、之れは屹度伯父様から、妾に贈って下さったのですよ」と云えば、二番目の娘は横合から覗込んで、
「いいえ、伯父様と妾と大の仲好しですもの、妾に贈って下さったに相違はありません」と争う。
 三番目の娘は其名を露子と云う、三人の中でも一番美しく、日頃から極く温順な少女なので、此時も決して争う様な事はせず、黙って腕環を眺めて居る。
 父伯爵は微笑を浮べて、
「イヤ待て、腕環は一個で、娘は三人、誰に贈るのか分らぬ、何か書付でも入って居るだろう」と、猶およく箱の中を調べて見ると、果して玉村侯爵自筆の短い書面が出た、伯爵は手に取って夫れを読み下せば――
一、この腕環は、玉村侯爵家に、祖先より伝われる名誉ある宝物なり、新年の贈物にと貴家に呈す、但し一個の外は無ければ、三人の令嬢の内、この年の暮に、最も勇ましき振舞…

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