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日本再建と科学
にほんさいけんとかがく
著者
文字遣い旧字旧仮名
底本 「自然 300号記念増刊 総収録 仁科芳雄・湯川秀樹・朝永振一郎・坂田昌一」 中央公論社
1971(昭和46)年3月20日
初出「自然」1946(昭和21)年5月
入力者山崎雅人
校正者小林徹
公開 / 更新2005-12-01 / 2014-09-18
長さの目安約 18 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

         1.緒言

 現在の我が國は,虚脱状態にあると謂はれる.全くその通りである.これは敗戰國の常として怪しむに足りない.殊にあれだけの無茶な戰爭をした後としては急に立ち直ることを注文する方が無理であらう.然し終戰後既に半年を過ぎても荒漠たる燒野原は依然としてその儘であり,燒け殘つた工場の煙突からはいつ迄經つても殆んど煙は擧らない.そして次から次へと勞働爭議が起り,賃金と物價とが競爭して昂騰して行つた結果が經濟緊急措置となつて現はれたのであるが,この先がどうなることかと危ぶまれるのである.そして人々はその日その日の食ふことにばかり氣を奪はれて,科學などといふ直接パンに關聯を持たない文化の分野は,ややもすると國民の腦裡から消え去つてしまふといふ状態である.これで好いのであらうか.
 この儘で進んでゆけば,物資の不足と道義の頽廢とは遂にこの古い歴史をもつ國家を破滅の危機に追ひ込んでしまふであらう.それは世界の歴史から見ても悲しむべきことであり,又そんな國が地球上に存在することは,國際上惡影響を及ぼす處が尠くない.これを考へるとどうしてもこの下向きの傾向を止めて上昇曲線に載せることが絶對に必要である.それは國民各自の責任であり,あらゆる分野の大きな建設的協力なくしては行はれ得ないことである.今自分は科學がこの我が國の再建に如何なる役割を持つてゐるかを述べ,それぞれの關係者の努力を要請したいと思ふ.

        2.科學の役割

 近代の物質文明は科學の發展によるものであるといつて差支へないであらう.否,物質文化のみならず,それを通して精神文化を今日の状態に持ち來たすに與つて力のあつたことは否めない事實である.
 最も顯著な例として原子爆彈を擧げて見よう.その原理は1938年にドイツのハーンとストラスマンとが,原子核の研究,即ち中性子を元素ウランの原子核に衝突させた場合にできる放射能の研究を行つて居つた際に發見したものであつて,ウランの原子核が中性子を捕獲するとそれが二つ又は二つ以上に分裂し,分裂破片は莫大なエネルギーを持つて飛び出してくる.このエネルギーが廣島や,長崎にあの通りの暴威を振ひ潰滅を齎したのである.(長崎の場合はウランではなく元素プラトニウムを用ひた.)これでも解る通り原子核の研究といふ最も純學術的の,しかも何等應用といふことを目的としない研究が,太平洋戰爭を終結せしむる契機を作つた最も現實的な威力を示すことになつたのである.これは如何なる外交よりも有力であつたといはねばならぬ.科學が現代の戰爭といはず文化といはず,凡ての人類の活動上,如何に有力なものであるかといふことを示す一例である.
 更に原子爆彈の今後の發達は恐らく戰爭を地球上より驅逐するに至るであらう.否,吾々は速かに戰爭絶滅を實現せしめねばならぬ.然らざれば人類の退歩,文化…

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